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「到着しましたよ、先生!」
二時間程かけてドライブを堪能し。ようやく辿り着いたぼくらは、華やかな入場ゲートを抜けて『入国』した。
王国の近衛兵姿のお兄さんに、入場スタンプをぺたりと押してもらう。
「ナァゾナゾー! 王国へようこそ! 行ってらっしゃい!」
『アカシヤキングダム』。
その名の通り、中世ヨーロッパ風の王国のような作りの遊園地だ。てっぺんに「?」マークの飾りがついたとんがり屋根の巨大な城――『アカシックパレス』を中心として、東西南北それぞれの方向に向けて街並みがぐるりと続いている。
「ここは『アカシヤ』という謎解きゲームなどを作っている会社がやっているテーマパークで、なんと周遊型の謎解きゲームが沢山あります! 先生にもきっと喜んで頂けるかと……」
園内は大きく四つのエリアに分かれており、それぞれ全く違ったコンセプトの謎解きが楽しめる――と園内マップに記されていた。
多種多様なリアル脱出ボックスが揃っている近未来的なノースエリア。
霧の立ち込めるロンドン風の市街地でホラー、ミステリー要素を体験出来るウエストエリア。
森で可愛らしいなぞなぞ妖精たちと戯れながら、宝探し風のミニゲームを楽しめる子供向けのサウスエリア。
レストランやカフェなどのグルメゾーンとなっているイーストエリアは、普通に食事をとることも出来るし、メニューによってはちょっとした問題が付いてきたり、ウェイターが謎かけ勝負を挑んで来たりすることもあるという。
そして何と言っても目玉は――五夢にも教えてもらった『アカシックパレス』にあるアトラクション『ナゾトキ勇者王と呪われた迷宮城』だ。お城全体を駆け回るような、大掛かりな謎解きが楽しめる。推奨時間三時間~五時間と記載してある。並ぶ時間も含めると相当な時間がかかりそうだ。必然的に一日で園内を全て回りきることは難しくなるだろう。
お客さんが何度も足を運びたくなるような仕組みになっているんだなぁ――と感心する。
入口付近で佇んでいるぼくらを歓迎してくれるかのように、シルクハットに背広姿、白くて丸い顔に大きく「?」マークが書かれたマスコットキャラクター『キィ君』の着ぐるみが「ナァゾナゾー!」と愛想よく手を振ってくれる。すると上空から紙吹雪がはらはらと舞い下りてきて、そこかしこで華やかなファンファーレが鳴り響いた。
「! ――おとぎ話の中のような所ですね」
万世先生が目をぱちくりさせながら園内の景色を見上げている。雰囲気に圧倒されているらしい。先生のカンカン帽に積もった紙吹雪をぱたぱた払い落として差し上げながら、ぼくも賑やかしい歓待に胸踊らせていた。
「先生はこういう所には来たことないんですか?」
「えぇ。初めてです。盛り場には縁が無くて」
「まぁぼくも――大学に入ってから何度か誘われて行ったくらいですけどね。似たようなものです。新鮮な気分でたくさん楽しみましょうね!」
「はい。まずはすてーきらんち定食を」
「もちろんです。早速向かいましょう!」
先生もご機嫌だ。幸先がいい。
ご所望のステーキハウスがあるイーストエリアに向かうべく、ぼくは鼻唄混じりに万世先生の骨ばった手を引いた。
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