第九話「あかしや」~謎だらけのテーマパーク~

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 その後、鏡の回廊を通り抜け、暗号扉をノーヒントで切り抜け、危険な仕掛け床のトラップを解除して、辿り着いたラストステージ。  黒い鎧を身に纏った、マスコットキャラクターのキィ君が直接出迎えてくれた。ここの案内役らしい。 「やぁ。よくぞ『決戦の間』まで辿り着いたね。選ばれし者たちよ――いよいよ最終決戦だ。私も一緒に見届けるから、最後まで楽しんでいっておくれ――ナァゾナゾー!」 『?』マークのエンブレムの扉がゴゴゴゴ……と音を立てて開く。  奥に待受けていたのは――『魔王ザオン』。闇夜のような黒いマントを羽織り、悠然と玉座に腰かけていた。今は長い黒髪を腰まで伸ばした美しい男性の姿をしていて、山羊のように曲がった大きな角を生やしている。いかにもラスボスといった感じの威圧感だ。 「勇者王よ――ついにこの世界の命運を決める時が来た。  貴様らのような者が現れるのを、ずっと待ちわびておったぞ。――謎を愛し、大いなる謎を解く力を持つ貴様らに、我輩から最後の試しを与えよう」  『魔王ザオン』が立ち上がる。  途端、まばゆい光がチカチカと視界を奪い、室内が暗転する。  次の瞬間――ぼくは我が目を疑った。  全く同じ姿形をした魔王が――もう一体増えていたのだ。 「魔王ザオンが――二体!?」  二体は両手を同時に振り上げ、そっくり同じポーズをとった。どこからかアップテンポで荘厳なオーケストラのBGMと激しい雷鳴が聞こえてくる。 「さあ。最後の戦いだ! 本物を選びとり、最終魔法を放つがよい! 最終魔法が使えるのはパーティーで一回きり。貴様らの示す答えはどれか――さぁ、当てることができるかな? アーッハッハッハ!」  声が――完璧にユニゾンする。  顔も姿形も同じ。細かい仕草も同じ。声も同じ。  全く見分けがつかない二体の『魔王ザオン』が――並んで哄笑している。 「――先生、どうしましょう。全く見分けがつきません! 右のザオンと左のザオン。一体どちらにしたらいいのか――」 「……七五三(しめ)君。君も一緒に杖を構えてください」 「――? 先生には、分かるんですか」 「ええ。『決戦の間』に入った時から、答えは出ているんですよ」  二人で手を重ね合って、二本の杖型ペンを構える。  隣にいる先生は、ぞっとするような――物騒な顔をしている。本気なのだ。この人にとって謎を解くことは、ただの遊びでは済まされない。 「七五三(しめ)君。僕に合わせて下さい――いきますよ!」 「はい、先生――!」  次の瞬間。  先生は二体の『魔王ザオン』たちにくるりと背を向けて――振り返った。  勢いよく入り口の扉の横に佇んでいた、黒い鎧を着たに向かって、高々と掲げた杖の先を突きつける。 「――貴方の正体は分かっています!」 「――!!!!!」  重ね持った杖からまばゆいレーザー光が放たれる。光は一直線にキィ君に直撃し、大きな火花を散らして弾け飛んだ。 「……よくぞ、分かったな――そう、私こそが、真の、魔王ザオン……」  先生の出した答えは正しかったらしい。  でも、どうして。 「そんな。魔王は二体とも偽者だったってことですか? あのキィ君が本当の魔王ザオンだったなんて……」 「そもそも選択肢が二つしか無いのであれば――『』ではなく『』という問い方になるのが自然なはず。つまり、第三の選択肢があった――」  先生が指を折り曲げて三の形を作る。 「確信が持てたのは、呼び方です。  『王の間』で出逢った『魔王ザオン』は、自らを「私」と呼んでいました。それに対して『決戦の間』の『魔王ザオン』らしき者は「我輩」――そして一度も。  貴方が、魔王ザオンです。」 「――その通り。物語を物語と慢心せず、僅かなヒントも見逃さない記憶力、洞察力、そして謎に向き合う姿勢……見事であった、勇者王よ……」  キィ君の体が光輝き、もうもうと煙を上げながら、崩れていく。  明るい音楽とファンファーレが鳴り響き、どこからともなく拍手が聞こえてくる。舞い降りてくる大量の紙吹雪。    ぼくらはこうして『ナゾトキ勇者王と呪われた迷宮城』の隠された裏ルートを、クリアしたのだった。
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