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「数多町に出没した違法な猫獲り騒動や、『襲神社』の事件から一躍有名になったそうですねぇ! 今じゃ依頼が絶えないそうで。虚構の世界じゃ探偵が出掛けた先々で都合良く事件に居合わせてますけど、先生は何故そんなにも事件現場にエンカウントするので?」
「偶然ですよ。――差し詰め『なぞ』に呼ばれたのだと思います」
「引かれ合う、ってヤツですか。コスチュームも相まってなんだか死神みたいですねぇ! 羨ましい限りですよ。世間はセンセーショナルな悲劇に飢えていますから。私も道を歩けばスクープにぶつかるラッキーストライクな記者になりたいものですが、先生に密着していれば案外叶うかもしれませんね」
八壁さんがクククと笑う。
違う。不幸を呼び寄せる死神体質は万世先生ではなく、ぼくのほうだ。勘弁してほしい。
「そうそう。気になっていたんですけど、そのソーサラーみたいなオールブラックの服は何かのポリシーですか? 邪悪な魔法使いみたいで格好いいですね! ロールプレイングゲームだったら間違いなく後衛から即死魔法放つタイプですよ、呪殺系の」
ロールプレイングゲームではないけれど、先日謎解きアミューズメントパークで、ラスボスの魔王ザオンに向かって見事に『最終魔法』を放ってきたばかりだ。あの時の万世先生は惚れ惚れするくらい様になっていた。
「――呪殺など。軽々しく口にしたくもありません。……纏うものは黒と決まっています。呪詛に干渉されづらい色なので」
「へぇ。でも頭装備だけは麦のカンカン帽なんですね?」
「これは単なる邪視避けです。頭を覆うことが出来れば何でもいいのですよ」
それは知らなかった。
服は黒ければ良し、帽子は大切――と心の『先生メモ』に書き加えておく。また街の量販店に出かけた時に着るものを見繕っておこう。そろそろ暑くなってきたし少しでも風通しの良い服を着せてあげたい。
「あの。万世先生、邪視って何なんですか?」
「それはですねぇ、七五三さん」
先生に聞いたはずが八壁さんが割り込んできた。
「悪意をこめて視線を向けることで、相手に呪いをかける力ですよ。西洋では悪魔の眼――イービル・アイとも言われています。秘密を盗み見たり精神に干渉することも出来る特殊能力らしいですね」
「そんなものまであるんですね」
「これぐらいは、オカルトの基礎知識ですよ」
そう言えば先生はお仕事関係の時、室内でも帽子を脱がずにいることが多いのを思い出した。依頼人や関係者への挨拶の時に軽く脱帽するくらいだ。今も頑なにぼろぼろのカンカン帽を被り続けている。
「お、そうだそうだ。先生は人や物にかけられた呪いを解くのがお得意なんですよね。どうやって解いているんです? ――何か必殺技とか、必殺アイテムみたいなものがあるんでしょう?」
※エンカウント=遭遇
※ソーサラー=主に悪霊を使役する魔法使い
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