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【一日目 午前十一時 七五三 千】
村役場を出たぼくたち四人は、地図のついた古い案内板を囲みながら今後の行動について話し合っていた。
「さて、と。まずは情報収集をしなくてはね」
「みんなが働いてる間にボクはイイ子でも探しておこっかな! 旅先での出会いって日常には無いトクベツ感あるじゃん。今度こそ運命的な恋に全力ダイブ出来る予感がビシバシする!」
「五夢、ここでもナンパ? さっき『目立つことはやめろ』って忠告されたばっかじゃないか」
「えー! そこに男と女がいれば恋のチャンスはあるわけじゃん。ワンチャン可能性がある限り飛び込んで行きたいんだってボクは! ついでに何か良い情報聞けるかもしんないしさぁー」
「一応教育者だって同行してるんだから羽目外すのはやめろよ」
綺麗なピンク色に染め抜かれた前髪のスタイルを整えながら息まく友人に、軽く釘を刺しておく。まだどんな場所かも分からないのに、白装束の怪しげな連中だってうろついているかもしれないのに、ふらふらと単独行動を許可していいわけがない。肩書きのあるちゃんとした大人なら諌めてくれるだろうと思い、期待を込めて都九見さんのほうに話を振ったものの、
「オフの時の学生のプライベートにまでいちいち干渉しないよ。立派にイニシエーションを経た大人の自認があるのなら好きに行動すればいい。事故も自己責任♪」
「いよっしゃー! じゃあ運命の出逢い探してくんね! また後で!」
駄目だ。都九見さんはこういうタイプだった。
すっかりギラつくナンパ師の目つきになった五夢は、意気揚々と村役場の北西側へと走り去っていった。我が友人は、こういうイベント事が大好きなのだ。旅先で出逢う人間は、日常で出逢う人間よりよく見えるものだと聞いたことがある。そういう、いつもと違う場所での特別感をとことん大切にしたいのだろう。
「私は、村役場の隣の資料室をあたってみようかな。研究者の性分でね。この村の伝承について調べたいことがあるんだ。文献を漁ってみるよ」
消えて行った五夢と都九見さんを見送りながら、ぼくと万世先生は聞き込みに向かった。
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