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ぼくらの視線が五夢に集まる。
女顔で小柄な彼は、肩まで浸かってしまえばショートヘアの可憐な女の子にしか見えない。男風呂に美少女が入っているようにさえ見えてしまうかもしれない。他にお客さんが居たらさぞかしびっくりしていたことだろう。
「つかミルミルとツグセン、下の毛、髪色まんまでウケる~。キンカクギンカクじゃん!」
しかし『外見美少女』の中身は、完全なる男だ。それもあけすけで下世話なほうの。
「ばっ――やめろよ恥ずかしいって」
「ミルはウブだねー。オトコが寄り集まったらシモトーク普通だって」
そういうものなのだろうか。ぼくは赤面しながら両手で下半身を隠した。確かに、ぼくは生まれつき金髪で、全身の体毛も薄い金色をしている。特に意識したことは無かったけれど、他人との違いを再認識し、急に恥ずかしく思えてきてしまった。
「二月君は――カラフルというわけにはいかないようだねぇ」
「まぁね。ボク、髪の毛ころころ色んなカラーに染めてるけど地毛はよくある焦げ茶だからさ。ツグセンみたいなダンディなロマンスグレーってモテそうだから憧れるし、ミルみたいに生まれつき金髪碧眼とかもうチート級にうらやましい! 王子様スタイルなんてモテ確じゃん!」
「うーん。そういうもんかなぁ」
「そっそ!」
瞳を一回り大きく見せるカラコンの入った目をきらきらさせてこちらを見つめてくる。全てがモテ中心に回っている五夢だけど、そういう単純で分かりやすいところに救われているのも事実だ。だからこそ仲良くなれたのかもしれない。
心身ほぐしながらゆったりした時間を楽しんでいた――その時。
露天風呂のすぐ傍の茂みから、明らかに異質な気配と物音がした。ぼくらはぴたりと喋るのをやめ、一斉にその場に凍りつく。
――誰か、いる?
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