430人が本棚に入れています
本棚に追加
息を詰め、咄嗟に警戒態勢を取る。
耳を澄まして、気配を探る。唸り声のような音が響いている。
動物か? いや――明らかに違う。
――もっと大きな何か。
「……覗きって雰囲気でもなさそうだねぇ」
「なんだよ、闇討ちか? ……殺気は感じねぇけど」
「五夢、殺気なんて分かるの?」
「肌感でな」
闇の向こうに浮かんでいたのは、一対の真っ赤な瞳。
信じたくないが――どう見ても、人間の眼のように見える。
暗闇越しに緊迫した睨み合いが続いていた。
「つーか、すぐに仕掛けてくる気がないってことは――何かの偵察か。もしかして話題の白装束? だったらソイツに聞いたら本拠地分かるんじゃね?」
「でも――今は丸腰っていうか丸裸だし無防備すぎるよ。一旦退いて体制を立て直したほうが――」
「はっ。武器ならここにあんだろ!」
胸元に親指を当てて、五夢がザバっと勢いよく立ち上がる。湯を滴らせながら、小柄だが引き締まった体が顕わになる。いつもの中性的なおしゃれファッションからは想像もつかないような、ぎゅっと凝縮された筋肉。相当な修羅場をくぐってきた格闘家みたいな体つきが隠されていた。
頭に乗せていたハンドタオルをぎゅっと腰に巻くと、
「追うぜ!」
「――わ、待って。待ってよ――!」
同じくタオルを巻きつけながら、勢いよく露天風呂を飛び出していった五夢を慌てて追いかけた。
最初のコメントを投稿しよう!