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タオル一枚で露天風呂を飛び出し、外へ。
幸いにして村人達の姿は無い。良かった。いや、良くない。今まさに、ぼくたちはほぼ全裸に近い格好で村の中を疾走しているのだ。
怪しい人影を追いかけて。
初夏とはいえ夜の空気がまだ濡れたままの裸身に沁みて震える。でこぼこした土の地面の感触が裸足に伝わってくる。尖がった石や硝子でも踏んだら大変だ。
「はぁ、はぁ――うう……こんな格好で走るなんて心許ない……」
「ミル、シャキっとしろよ。立派なオトコだろ! 見られて恥ずかしいところなんか一つも無いって!」
「いや、どこもかしこも思いっきり恥ずかしいよ!? 公然猥褻ものだよ!?」
五夢は普段はSNSで中性的なジェンダーレス男子として自分自身を可愛らしく演出しているけれど、当の本人はふとした時に物凄く『武闘派』になる時がある。人は誰だって外向きと内向き、両方の顔を持ち合せているものだ。おそらく今の勇ましい様子のほうが素の彼に近いのだろう。友人の昔の話はまだ何も聞いたことがなかったけど、一体どういう生き方をしてきたんだろう。
「あっはっは。大丈夫さ。大勢の前で女装した君達ならこれくらい♪」
「――あれはあんたのせいだろ!」
振り返ってツグセンにツッコミを入れる。准教授はちゃっかり腰にバスタオルを巻いて、みんなの着替えを小脇に抱えて来ている。抜け目がない。
ぼくはと言えば吹けば飛ぶようなミニタオル一枚の頼りない装備だが、そうも言っていられない。ぼくは先生の助手なのだ。しっかり調査のお役に立たなくてはならない。
街灯も殆ど無い道すがら。感覚を研ぎ澄ませる。
「くそっ。どっち行きやがった!?」
「左前方――『深ノ森』の看板があるほうだね」
的確に後ろから指示してくる都九見さん。
「なんで分かるの、ツグセン?」
「夜目が利くんだよ」
「ソレ、夜目ってレベルか? 全然見えなかったんだけど!」
「ほらほら、いいから追いかけて。取り逃がしてしまうよ」
言われた通り看板のほうへ駆けていくと、走り去っていく背中がはっきりと見えた。白い装束は着ていない。スウェット姿で、中年くらいの男性のシルエット。一生懸命追いかけた甲斐あってかなり近づいている。
先導していた五夢が、地を蹴って一気に距離を詰める。
手を伸ばし――とうとう怪しげな人物の肩を掴んだ。
「ッシ―――捉えた!!」
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