第十話「きかいむら」後編~鬼退治伝説と白装束集団~

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【二日目 午前六時 七五三(しめ) (ミル)】  目覚めると、万世(まよ)先生と都九見(つぐみ)准教授の姿がどこにも見当たらなかった。  すぐ傍からまだ爆睡している五夢(いつむ)の寝息だけが聞こえてくる。あろうことか自分の陣地から大幅にはみ出して、ぼくの布団に入り込んでいる。友人の手足を引き剥がし、青ざめながら部屋中を捜索していたら、暫くしてお二方が連れ立って帰ってきた。髪の毛をしっとり濡らし首にタオルを引っ掛けた「いかにも湯上がりです」といった風体。  早起きして朝風呂に入っていたのか。お揃いで? ずるい。そんなの聞いてない。 「おはようございます、先生……! いらっしゃらないので心配したんですよ! 大丈夫ですか? 怪しい奴らに襲われませんでしたか? ツグセンに変なことされてませんか? ご無事ですか?」  ぺたぺたとボディチェックをする。黒衣の下の肌が温まっている。こんなことなら、ぼくも誘ってくださったら良かったのに。呑気に眠り込んでしまっていた自分自身を叱責する。昨日あんな恐ろしいことがあったばかりで、どうにも気分が落ち着かない。結局ゾンビみたいな奴らと共に、白装束達はすぐここから去っていってしまったけれど。 「? ……無事です」 「あぁよかった!」 「ですが、変なこととは――」 「先生は一切知る必要の無いことです」  きょとんと澄んだ目で首をかしげていらっしゃる先生。願わくば先生はずっとそのままでいらしてください――と心の底から願って拝んでいたら、ツグセンが割って入ってきた。 「こらこら。師を犯罪者予備軍みたいに言うんじゃないよ。私は研究と添い遂げると誓った紳士だもの。何もしないよ」 「もー! って何ですか! って!」  床の上で地団駄を踏んで抗議する。油断も隙もない。都九見(つぐみ)さんは知的でハンサムだし、研究者としても知識豊富で尊敬出来る人物なのに、人を食ったようなこの性格は何とかならないものか。今まで一泡も二泡も吹かされてきたので全く信用出来ない。 「あっはっは。冗談さ。七五三(しめ)君はからかった時の反応がいちいち面白いなぁ♪」 「うー……面白がらないでください!」 「……貴方がた、随分仲良しですね」 「誤解です!!」  これだけ騒いでいても全く起きる気配のない五夢(いつむ)を叩き起こし、調査に向かうべくぼくらは朝の支度を始めた。
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