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【二日目 午前六時 七五三 千】
目覚めると、万世先生と都九見准教授の姿がどこにも見当たらなかった。
すぐ傍からまだ爆睡している五夢の寝息だけが聞こえてくる。あろうことか自分の陣地から大幅にはみ出して、ぼくの布団に入り込んでいる。友人の手足を引き剥がし、青ざめながら部屋中を捜索していたら、暫くしてお二方が連れ立って帰ってきた。髪の毛をしっとり濡らし首にタオルを引っ掛けた「いかにも湯上がりです」といった風体。
早起きして朝風呂に入っていたのか。お揃いで? ずるい。そんなの聞いてない。
「おはようございます、先生……! いらっしゃらないので心配したんですよ! 大丈夫ですか? 怪しい奴らに襲われませんでしたか? ツグセンに変なことされてませんか? ご無事ですか?」
ぺたぺたとボディチェックをする。黒衣の下の肌が温まっている。こんなことなら、ぼくも誘ってくださったら良かったのに。呑気に眠り込んでしまっていた自分自身を叱責する。昨日あんな恐ろしいことがあったばかりで、どうにも気分が落ち着かない。結局ゾンビみたいな奴らと共に、白装束達はすぐここから去っていってしまったけれど。
「? ……無事です」
「あぁよかった!」
「ですが、変なこととは――」
「先生は一切知る必要の無いことです」
きょとんと澄んだ目で首をかしげていらっしゃる先生。願わくば先生はずっとそのままでいらしてください――と心の底から願って拝んでいたら、ツグセンが割って入ってきた。
「こらこら。師を犯罪者予備軍みたいに言うんじゃないよ。私は研究と添い遂げると誓った紳士だもの。まだ何もしないよ」
「もー! まだって何ですか! まだって!」
床の上で地団駄を踏んで抗議する。油断も隙もない。都九見さんは知的でハンサムだし、研究者としても知識豊富で尊敬出来る人物なのに、人を食ったようなこの性格は何とかならないものか。今まで一泡も二泡も吹かされてきたので全く信用出来ない。
「あっはっは。冗談さ。七五三君はからかった時の反応がいちいち面白いなぁ♪」
「うー……面白がらないでください!」
「……貴方がた、随分仲良しですね」
「誤解です!!」
これだけ騒いでいても全く起きる気配のない五夢を叩き起こし、調査に向かうべくぼくらは朝の支度を始めた。
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