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【二日目 午前八時 七五三 千】
ぼくらは村の北西部――深ノ森地区に向かった。
昨日聞き込みをした印辺地区よりさらに奥まったところに位置する集落。自然に囲まれていて、木々の合間に木造や茅葺造の昔ながらの家々がぽつりぽつりと立っている。生活道路の脇に木々がせり出してきていて、まだ日中なのに薄暗く鬱蒼としている。
集落を抜けた先に『封囲の森』が広がっている。鬼退治伝説のご神木があるという森だ。
「じゃーん! 見てよこれ」
五夢が道すがらスマートフォンの画面を見せてくる。
年配の男性の顔写真が表示されている。証明写真のような写り。痩せ形に細い目。白髪交じり。知らない人のはずだ。でも、不思議なことにどこかで見たことがあるような気がした。
「これ誰? 何か既視感あるんだけど」
「その通り! さっすがミル鋭いね! 昨日の晩、部屋を襲った奴らの動画撮ってたっしょ。これは窓に貼り付いた瞬間をスクショして引き延ばしてアプリでちゃちゃっといじってみたやつ! 即席モンタージュってわけ。まだまだ何人かあるよー」
なるほど。インフルエンサーの五夢らしいやり方だ。SNSに写真を上げるのに巧みに画像編集アプリを使いこなしているだけある。
ぼくはあまり詳しくないけど、今は優秀なアプリが増えていて、写っている人物の表情や背景まで自由自在にいじれるらしい。FIVESでも女の子達が不自然なくらいに目を大きくしたり、肌を陶器みたいにつるつるさせたりしているのを結構見かける。
「へぇ。モンタージュとはよく考えたねぇ」
「ふっふー♪ オカ研のトップ部員なめんなよ」
覗き込みながら都九見准教授もしきりに感心している。確かに目撃者を見つけるのに、似顔絵よりはずっと有効性がありそうだ。
五夢が作り上げたモンタージュを手に、ぼくらは深ノ森集落へと乗り込んでいった。
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