第十話「きかいむら」後編~鬼退治伝説と白装束集団~

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【三日目 午後七時 七五三(しめ) (ミル)】  何が起こったんだ?  一瞬のことで理解が追い付かない。速すぎて何も見えなかった。  気が付いた時に目に飛び込んできたのは、ご神木のすぐ傍で、覆い被さるように万世(まよ)先生を庇う都九見(つぐみ)さんの姿。  そして。 「つぐ、み……さん――?」  その背中と右肩に、『(エンジュ)』の鋭い枝と夥しい数の尖った葉が小さな刃のように突き刺さっていた。ご神木を乗っ取っている何者かの急襲を受けたのだ。傷口からジュウウ……という音と、黒い煙が上がる。皮膚が焼け焦げるような匂い。低く押し殺した苦悶の呻き。   「っ、……は、……効く、ねぇ――これは……」 「――貴方、何を……!」 「あ、はは――人より動体(ドータイ)視力が良いものだから……ついつい胴体(ドータイ)が動いてしまったよ。いけない、な……」 「手当を――」  傷に触れかけた先生の手を、都九見(つぐみ)さんがゆるく払う。 「いい。……かすり傷さ。治療は、全部終わった後でいい」  笑いながらよろめいてその場に膝をついた。苦しげな息遣い。急いで先生達の元に駆け付けたいのに、いつ次の攻撃が飛んでくるか分からないこの状況で、ぼくも(あおぎり)君もその場を動くことが出来ない。お役に立てない。歯痒さに居た堪れなくなった。ぼくに――もっと力があったら。魔と渡り合い先生達をお護り出来るだけの力が。 「今は、君の存在意義を全うしてくれ。――君が君を見失うなよ」  准教授は力ない腕で万世(まよ)先生の背を支えると、ご神木のほうにそっと押し出した。  先生は、もう振り返らない。  そのまま黙ってご神木の正面に立つと、両手で幹に触れ――目を閉じて、呪文を唱える。祈りを捧げるように。  次の瞬間。  そびえ立つご神木の樹皮の隙間から解き放たれるように、どす黒いもやのようなものが勢いよく溢れ出し――万世(まよ)先生の体を取り巻いた。
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