第十一話「のぼりりゅう」~二月 五夢の告解~

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 そこから医者の母に頭を下げて、傷痕が残らないような治療をお願いし、痕がどうしても消えない部分は手術できれいにしてもらった。  自慢だった歴戦の傷も全て消してしまった。  後になって偶然知ったことだが、オレの悪事の後処理は、親が示談金を積んだり謝罪に回ったりして何とかしていたらしい。まともに通っていなかった学校の単位までも。どうりでサツの厄介にもならなかったし、問題なく進学できたわけだ。自分だけの力でカッコ良く生きてきたと思っていたのに、あまりにもカッコ悪すぎた。  幸い、今売りにしている『顔面』だけは、守っているつもりは無かったが奇跡的に無事だった。ほぼ無傷だった。半殺しにしたオレの身柄を戦利品として族の上に引き渡すのに、ボコボコにしすぎたら誰か分かんねぇのもあっただろうな。頭の悪いオレにとって腕っぷし以外では唯一顔くらいしか取り柄がないので、これには大分救われた。    オレは――ボクは。  生き方を百八十度変えてやろうと考えた。  金髪オールバックヘアを捨てて、雑誌を見たりネットを漁ったりして流行りを研究しまくった。受験勉強と一緒にファッションの勉強もした。どうやったら「みんなが自分のことを見てくれるのか」「どうやったらみんなに愛されるのか」を必死こいて考え、魅力を最大限に生かせる自己プロデュースに専念した。  そして大学生になり。大学デビューに何とか間に合った。  元々通っていた九頭ヶ谷学院(クズガク)から市を跨ぎ、大分距離の離れた五ツ橋大学に進学した。元々の知り合いどもが誰も居ないところで、完全に生まれ変わりたかった。  ボク自身の力で。今度こそボクのことを見てもらえるように。  今までの本性をひた隠し、SNSを通じて色んな流行りのイベント事に顔を突っ込み、オシャレな店でバイトを始めて『イマドキ』の友達を大勢作った。オレの外見に引かれてすぐに周りは人でいっぱいになった。今までとは違った層のオンナノコにもモテ始めた。  (ミル)ともそんなときに出逢った。ミスターコンの表彰式で。結構イケてると自負するボクでさえ、二度見するほどカッコ良かったので思わず声を掛けた。今思い返せば、彼もイケメンなのにどこか『デビュー』な雰囲気があったから気になったんだろう。ボク達はお互いに過去を隠しながら、すぐに打ち解けて――親友になった。    大学一年の秋から始めた古着屋バイトで雑誌の取材を受けたことをきっかけに、今やすっかり読者モデル(ドクモ)の『いつむ~みん★』になり、SNS界では有名人の仲間入りを果たした。  思い返しても、ロクなことに使ってこなかったこの拳。  もう封印してしまうつもりだったのに。  今――。  視えない敵に向かって、オレは必死に拳を振るっている。
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