430人が本棚に入れています
本棚に追加
「――二月君、二月君」
「にゃー……にゃー……」
「ん……あぁ? ボク、何を――」
マヨセン達の呼ぶ声で、遠くへ行っていた意識が戻ってきた。
戦いのさ中に走馬灯じみたものを見ていたような気がする。まだふわふわする。首を絞めつけていた苦しさはもう無い。敵の気配もすっかり消え去っている。どうやら助かったらしい。
寄り添うオクラちゃんが心配そうにぺろ、と頬を舐めてくれた。「大丈夫か?」と聞いてくれている気がする。人間だったらマジでカノジョにしたいタイプだ。猫だけど。
「怪我はありませんか。……君、呪念を殴れるだなんて。只者ではありませんよ」
「えっ。まさか――」
カピは大きな壺の口にぺたりと仕上げのお札を貼っている。その言葉にはっと我に返った。
どうやらボクは呪念とやらを殴れたらしい。
「じゃあボクが、その呪いの怨念ヤローをブッ殺したってこと!?」
「そもそも命なきものに『ブッ殺した』という表現はおかしいですが――君の奮闘のお陰でどうにか鎮めることが出来ました。しかし――念や霊体に干渉できる人間は『視える』ことが条件なのですが。こういうこともあるのですね。ちょっと失礼――」
言いながら、骨ばった温かい手が、ボクの右手にそっと触れてくる。擦ったり裏返したりしながら、古びた虫眼鏡まで使って何かを確認している。意味不明の行動だし、いつもならヤローに手を握られる趣味は持ち合わせてねぇって跳ねのけるとこだけど、不思議とそんな気にはならない。このセンセーはそういうのを超越した場所にいるような気がする。直感的に。
「何か変わったことあった?」
聞くとカピバラ先生は首を大きく縦に振る。
「あるも何も! 君の右手には――神の加護がついていますよ。手の甲に龍神様の印のようなものがうっすら視えるのです。僕ですら加護を受けた者は神に近しい者以外ではお目にかかったことはありません。……前世で龍の神様でも助けたのでしょうかね」
相変わらず無表情だけど、なんかちょっとテンションが上がってるらしい。口数多く、前のめり気味にまくし立ててくる。
この右手に? リュージンサマの加護?
でも。この手は人をたくさん傷つけてきた。なんでもかんでも壊してきた。血と暴力にまみれまくった傷だらけの汚い手だ。
そんなの――ありえねぇ。
最初のコメントを投稿しよう!