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家族写真に写るぼくの姉を指さし、二月が驚いている。
アシンメトリーな黒髪ショートヘアに、タイトなロングスカートが良く似合う、背の高いツンとした美人。アジアンビューティを体現したような佇まい。
「百姉さんか。三つ年上の、ぼくの異母姉だよ。芸能界にいるみたいで――モデルやってるって聞いたな。まだ数回しか顔を合わせたことが無いんだ。今は家も出てるし、彼氏? と同居してるはずだよ」
「ちょっと待て、頭の整理が追い付かねぇ。MOMOちゃんがミルの姉ってとこまで理解出来た。彼氏って? ねぇ、彼氏って誰! 何者!」
女好きの五夢は、どうやらぼくの話なんてすっかり忘れ、百姉さんの話題に心奪われてしまったようだ。
「年上で、明らかに業界人っぽい人。日サロに通ってて、ギラギラの時計とか財布とか持ってる感じの。実業家って言ってたかな。胡散臭いし、全然格好よくないよ」
そう言うと、二月は項垂れて床をすりすりし始めた。余程ショックを受けているらしい。
「オレさ……ずっとひそかにMOMOちゃん狙って……いや、いいなって思って連絡取ったりしてたんだけど、マジか。ミルのお姉ちゃんで、しかも業界の人と付き合ってるならもう、いいや……ハハハ」
そう言って魂が抜けたようにぶつぶつ言いながら、スマートフォンを弄り出した。良くも悪くもいつも通りの彼だ。五夢が戦線離脱してしまったので、結局ぼく一人でしゃぶしゃぶの具材の準備を進める。なんとかお肉と野菜を切り終わったところで、
「やぁ――そろそろかな? 何か運ぼうか?」
と、都九見准教授が計測したようなタイミングで台所へとやって来た。もう少し前に来られていたら、ぼくや五夢の秘密話をこの人にまで聞かれていたかもしれない。背筋がざわっとした。
「とりあえず盛り付けた野菜とお肉を順番に運んでもらえますか。もう間もなく準備出来るので」
億良の分のごはんも含めて、すべての段取りが終わったところで、テンションがだだ下がりしている二月を引きずって先生達の待つ応接室へと向かった。
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