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はぐらかしてしつこくされるのも鬱陶しいので、とりあえずスマートフォンを取り出して七五三家の家族写真を見せることにした。
中心で立派な椅子にかけているのが当主である父と、ぼくとは血の繋がっていない義母。椅子を囲むように長男である十兄さんと、長女の百姉さん。そして左端にぼくが立っている。
「へぇ~。この子がモデルやってるお姉さんね。確かに雑誌で見たことあるな。それで、この生真面目そうな子が七五三君のお兄さんかな。皆少しずつ七五三君と鼻筋が似ているよねぇ」
と都九見さんが白々しく感想を述べている。
ぼくらの話を聞いていた可能性が高い気がするが、一体どこから聞いていたのか恐ろしくて確認することも出来ない。
さらに、万世先生まで関心を持ったらしく、画像を覗き込んでくる。二月だけは、先程の『カレシ』の話を思い出したらしく、御椀を持ったまま落ち込んでいる。楽しい団欒風景のはずなのに、何故かカオスになってしまっている。
「もう家族の写真はいいでしょう。お鍋に集中しましょうよ」
そう言って、ぼくは先生方から携帯を取り上げた。
「七五三君のご家族は皆優しそうな顔をしていますね」
「……え、そうですか?」
どうなんだろう。洞察力の鋭い先生にしては、ちょっと的外れな意見だ。少なくともぼくとはぎくしゃくしていてまともに家族らしい会話なんて出来たことがない。義母に至ってはぼくのことを『悪魔の子』だと呼んでヒステリックに疎んでいるし、義母に付き従う兄だってそうだ。
「ところで七五三君。君の隣に立っている少年は誰です? 弟さんも居るのですか」
さらに。妙なことまでおっしゃる。
万世先生以外の全員でもう一度写真を見直してみる。
ぼくが一番端に立っているはずの集合写真に、人の立つスペースは無いのだ。
「やっぱり誰も写っていませんよ。見間違いでしょう」
「――そうですか」
その後、腹を空かせた男四人の手にかかってあっという間に肉も野菜も無くなってしまったので、「七五三君、締めを頼むよ」なんてダジャレ交じりに囃し立てられながら、締めの中華麺を投入する。アルコール類の大好きなぼく以外の三人は、日本酒の二本目を開けてすっかり上機嫌だ。お鍋とお酒でほっこりと場があたたまりきる頃には、些細な数々の違和感のことなど誰もがすっかり忘れてしまっていた。
数多町七十刈探偵舎
幕間『ベストフレンズ』 終 次話に続く
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