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「ひぃ~……怖い怖い怖い怖い怖い!!!」
五夢が恐怖でがくがくと揺れている。彼はオカルトが好きなのか、怖いのかどっちなんだろうと思う。意外と怖がりで、怖い感覚自体を楽しむタイプなんだろうか。絶叫マシーンが苦手なのに乗るのが大好きな人みたいに。
「洒落にならねぇ!! つか後味悪すぎ!!!」
「怖がってくれて嬉しいよ。二月君は反応が良いねぇ」
あっはっはと笑う。正直笑顔で語るような内容では無い気がする。しかも凄惨な実体験。都九見さんはきっと殺人現場を目撃した後でも平気でステーキとか平らげるタイプなんだろうなぁと思う。グラスハートのぼくには、准教授の鋼鉄の心が羨ましい。こんなふうにはなりたくないけど。
「……また、随分と昔の話を」
「懐かしいだろう。あれがきっかけで仲良くなり始めたんだよねぇ私達」
「……別に。今も昔も、そう仲良くなんてありませんよ」
上機嫌な准教授の横で、先生が不機嫌そうにそっぽを向く。ご両人の温度差が凄すぎて、暖気と冷気で竜巻が起こりそうだ。何が真実なのかさっぱり分からない。今はあまり深く考えないことに決めた。
「でさ。その石室どうなったの? どう考えてもヤベェだろ!」
「被害が拡大しないように横穴の入り口を埋め直しておいたよ。正確な場所は私しか知らない。まぁ今の万世君なら解呪出来るのかもしれないけど、あえて危険を冒してまで行く所でもないよね。古代人だって現代人だって、無遠慮に寝所に入り込まれて荒らされたら良い気はしないだろうしねぇ」
「――ほらミルミル、嫌味言われてんぞ」
「えっ、何のこと?」
「…………」
ちょっと待てよ。
玄関先で先生は、ツグセンが受けた呪いにすぐ気付いたという。
ということは、先生は『呪』を感知出来るということだ。
――それなら、ぼくのこの『呪われた体質』についても、何か勘付いていらっしゃるんじゃないのか。いや。でも先生の態度は至って普通だ。
どういうことだろう。
ぼくは誰かに呪われているんじゃないのか?
「さて。トリは七五三君だね。果たしてこの私より恐ろしい話が出来るかな?」
「めちゃくちゃ怖いのブチかましてよ! ミル」
「――にゃーお」
「うーん。皆さんほどの怖い話はありませんけど――頑張ってみます」
皆の声援に思考が引き戻される。
窓ガラスや壁ががたがたとうるさく鳴っている。外もなんだか騒がしい。さっきまで良い天気だったのになぁと不思議に思いながら、ぼくは最後の蝋燭を手前に引き寄せた。
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