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案内された革張りのソファに腰かける。
外見もレトロすぎるくらいレトロだけど、中も中々年季が入った家具揃いだ。ちゃぶ台に、黒電話。今時昭和設定のドラマ以外で久しぶりに見た。日本が舞台のホラーゲームの背景素材に使えそうな気がする。
「俺は、浦部 四折。四つ折りって書いてシオル。変わった名前でしょ。由来は聖書に出てくる『黄泉の国』らしいんだけどさ。ま、ヨロシク。
実はうちの兄貴が変で――何か部屋に籠もって呪いの儀式みたいなことずっとやってるんすよ。そのことで相談に来たんです」
反対側の席に座ったのは二人。とまだら模様の猫一匹。
一人はさっきの金髪の青年。
助手のシメミル君と名乗った。何国人なんだかますます分からない。テクスチャーみたいなつやつやした白磁の肌。少し濃い目のさらさらした金髪に、南の国の海みたいなブルーアイズ。耳の尖っていないエルフ族みたいな、美形だ。そのままRPGのイケメンキャラとして出演できそうだ。
「――儀式、ですか。具体的にはどのような?」
もう一人。探偵のナソカリマヨと名乗った。こいつが話に聞いていた呪術専門の探偵なんだろう。
見るからに変人の類だ。
愛想の欠片も無く、表情らしきものが読み取れない。淡々と口だけ動かして喋る様子は、そういうからくり人形のようだ。ひらひらした黒づくめの服が陰気な雰囲気を際立たせている。俺も平均に比べてやや小柄だけど、その俺より一回りくらい小さく感じる。猫背で痩せぎすなせいだろうな。
年齢不詳な顔立ちなので、年上なのか年下なのかも分からない。厚ぼったい瞼の下の目はなんだかちょっと面白い色をしている。茶色の中に緑色をまだらに溶かし込んだみたいな。
「いや。部屋の外からしか分からないんでアレなんすけど――部屋から時々変な匂いや鳴き声がするんすよ。兄貴、昔から虫とか小動物とか捕まえては、じわじわいたぶって、挙句殺しちゃうタイプだったんすよね。それもありふれたやり方じゃなくて――」
「どのような方法を?」
「いや。思い出してもゾッとするんですけどね。
昔、俺、見ちゃったんすよ。校舎の裏で芋虫捕まえてスポイトでちょっとずつ洗剤飲ませてみたり。野良ネコに毒入りの餌やったり。あと……中学の時、兄貴のクラスで異物混入騒ぎがあってさ。給食のシチューに液体洗剤が入ってたんだ。何人も病院に運ばれて、警察まで来たけど結局誰がやったのか分からず仕舞いさ。俺は兄貴の仕業なんじゃないかって睨んでる。
うちの兄貴、アタマおかしいんだよ」
結構凄まじい話を聞かせた後でも、探偵のポーカーフェイスはまったく崩れない。
「むしろ心療科に繋げるべきでは。誰も注意しなかったのですか」
「それが兄貴の賢いとこさ。誰にも気取られず、誰にもバレずにその行為を続けてた――ってとこなんだ。疑われないように、証拠とか残さないようにうまくやってさ。ま、うちの親、無関心だからどうせ気付かなかっただろうけどね。
そんなわけで――俺だけが知っている。だから責任感じちゃってるワケ」
真剣な表情を、二人と一匹に向ける。
何とかこの切実さを伝えられたら。
「兄貴の癖はきっと今も続いてる。どんどんエスカレートして、もしかしたら人間が対象にされてるかもしれない。
だって、部屋から聞こえてくる鳴き声がさ。
最近――どうも人の声にしか聞こえないんだよ」
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