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「それで。お兄さんのお名前は? 何をしている方なんですか。詳しい情報を頂きたいのですが」
黒づくめ探偵は微妙に乗り気だ。
質問を次々と投げかけてくる。待てよ。せめて一問一答にしろ。会話のキャッチボールってあるだろ。
俺は頬をかきながら、ちょっと天井のほうを仰いだ。
「兄貴は――あー、浦部 三折。三つ折りって書いてサオルっす。シオルとサオル。覚えやすいでしょ。職業は、昔はいいとこに勤めてたんだけど、急にやめちゃってからはずっと引きこもりっすよ」
「引きこもりの方が、虫や猫を捕まえてくるのですか?」
「――そりゃ、引きこもりだって時々散歩とかすんだろ。俺もゲーム会社で働いてるから四六時中兄貴のこと見張ってるわけじゃねぇし」
疑われてるのかと思って結構イラっとした。
ふむ、と黒づくめの変人が何か考え込んでいる。
「貴方自身のことも、聞かせてください。依頼人の情報も必要ですので。何をしていらっしゃるんですか?」
「俺? 俺について知りたい?
二十四歳B型で、職業は3Dグラフィックアーティスト。いわゆるグラフィッカーってやつ。有名なゲーム会社でホラーゲームのモンスターのモデリングとか担当してんの。デザインするのは大変だけど楽しいよ。ま、アルバイト社員だけどね。結構気に入られてるから社員にならないかって声もかかってる。良かったら俺の作ったもの、見る?」
鞄からタブレットを取り出して画像フォルダを開く。
いつでも人に見せられるように、自分でも見直せるように、自分のグラフィック作品は全てここに収まっている。その中でもとびきりの自信作をピックアップして見せてやった。
全身に細かな人面瘡が出来てのたうち回るゾンビ型モンスター。這いずるような歩き方が傑作だ。あとはこの、体中から赤ん坊の手足が生えたやつも気に入っている。手足がそれぞればらばらの動きをするのだ。
「うわ気持ち悪っ! ――あ、すみません。つい」
「いいよ、気持ち悪いは褒め言葉」
シメミル君が口元を押さえて青褪めている。感じたことをついそのまま口に出しがちな性質らしい。ギャラリーの反応に俺は気を良くした。どうだ。すごい作品だろう。
「――実際にこういうものを見てきたような出来ですね」
「普段から色んな生き物をよく観察してるから」
「……ふむ」
スマートフォンを弄る指に、ふと探偵の指が重なってきたのでびっくりする。気持ち悪っ。なんだよこいつ。距離感バグってんな!?
「――ずいぶん手、荒れてますね」
目をぱちくりさせていたら、そんなどうでもいい事を言われたので拍子抜けしてしまった。なんだよ、ビビらせんなって。
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