430人が本棚に入れています
本棚に追加
「で。俺の依頼、受けてくれるの? くれないの? どっち」
「――分かりました。その依頼、引き受けましょう」
探偵がこくりと頷いた。
やった! どうも有り難う。一時はどうなることかと思ったけど予定通り引き受けてくれそうでほっとする。
「じゃあ早速うち来てくんない? 近くにクルマ停めてあるからさ。あ――でも、ぞろぞろ行くと兄貴に気付かれちゃうから、まずは探偵さん一人で来てよ。ねっ」
「――えっ!? そんな。いけません。先生をお一人で行かせるなんて……」
シメミル君が途端に不安そうな顔をしてきょろきょろし出した。なんだなんだ? 自分が行けないのが残念――というわけじゃなさそうだ。文字通りこの探偵のことを心配してるんだろう。でも、いい大人に対しての心配じゃないだろ。仮にも探偵やってるワケだしさすがに一人で出歩けないはずがない。片時も離れたくないってか? 過保護を通り越してちょっと気持ち悪い。
もしかしたらこの助手君、イケメンな見た目の割に、中身や趣味嗜好がとんでもなく残念な奴なのかもしれない。人類としての釣り合いが取れた感じがして俺は内心、溜飲を下げた。
「依頼人の意向を尊重すべきでしょう。僕だけで行きます。七五三君と億良にはその間にやってほしいことがありますから、紙に控えておくように。
――今から少々頭を使ってもらいますよ」
シメミル君が、探偵が次々と耳打ちして伝えた『やることリスト』を、一生懸命メモに書き留めている。随分沢山あるな。つーかスマホでちゃちゃっと共有すればいいのに。至ってアナログだ。そういえば、この探偵がスマホを使っているのを見ていない。レトロな家の主はスマホさえ持たないってか。
いやいや。多いだろ。今日中には片付かないだろ。
助手君と猫がリストを見て愕然とした顔を浮かべている。ちょっと気の毒になってきた。人遣いも猫遣いも荒いんじゃないのか? とんだブラックだ。
「――合わせて、こちらもお願いしますよ」
おいおい。まだあるのかよ。『毒のあるキノコ全集』は俺も読んだことある。
豹柄の猫がやたらとスンスン鼻を鳴らして嗅ぎまわってくる。なんだよ。邪魔だ、どけよ。
「――分かりました。ぼく、車を手配してきますね」
「ええ。頼みますよ。君達にかかっていますので」
「先生。……お気をつけて」
と言って、ばたばたと玄関の外へと駆けて行った。今から動き出さないと間に合わないと判断したのだろう。それにしても、猫まで連れていったのは何故だろう。猫の手も借りたい気分なんだろうか。
ともあれ話はまとまったようだ。
軽く準備を済ませた探偵さんを連れ、俺は自分の車に乗り込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!