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「さて、入口に戻りましょうか」
「猫たちのこと……本当にすみませんでした。無事でいてくれているといいのですが。あと」
流石に現代日本に生きる人間として、この惨状も放っておくわけにはいかない。
「警察に連絡をしませんか。猫獲りの悪人だったとはいえ、死んだ方をこのまま放ってはおけません」
「ああ、そうでしたね。では七五三君。警察に連絡を。ツクモ君なら、心配ないでしょう。なにせ、うちの億良が一緒ですから」
先生の確信に満ちた言葉通り、ぼくたちは入口で無事に猫二匹と再会を果たし、そのまま警察に連絡した。
警察に怪奇現象について伝えたところで信じてもらえる筈がないと覚悟していたが、思いの外ぼくらの言い分はすんなり受け入れてもらえたらしい。第一発見者として多少取り調べは受けたものの、猫探しの末に辿り着いた廃墟で偶然見知らぬ遺体を発見した不運な『通りすがりの私立探偵』たち――として、あっさりとその日のうちに解放されることとなった。
ぼくの名前を伝えた途端、警官の対応ががらりと変わったので、おそらくぼくの『家』の影響力もあるのだろう。ここ数多町は、隣町の七五三町の警察が管轄しているはずだ。もし『七五三家』の人間を無碍に扱いでもしたらただでは済まされないのだろう。
今回の死体について警察からは「違法な猫獲り業者」とだけ聞かされた。各地を転々としては、そこの猫を大量にさらって殺し、皮を剥いで売り飛ばすのだそうだ。皮は高級三味線の材料としてあちこちでそうとは知らずに使われるらしい。従来は野良猫をさらうことが多かったそうなのだが、材料として「若い雄猫か手術をしていない雌猫」のほうが高値がつくので、数多町の飼い猫たちに手を出したのだろうと聞いた。
ぼくも生き物を食べて暮らしているので、生きるための殺生や昔ながらの伝統云々について口を挟むつもりはないが、家族に愛されていた猫たちを無断で連れ去って毒牙にかけるのは如何なものだろう。ぼくだったら。大切な存在がいなくなってあまつさえそんな目にあわされていたら、とても正気でいられない。
そして犯人は、結局持っていたナイフで自ら首を搔き切った形跡があることから「自殺」と断定されたと聞かされた。
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