第十二話「どくどく」~囚われの呪術師探偵~

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 あ、はは……。  どうしてこんなことになったんだろう。  悪いことなんてしていない。自分の欲求に素直に生きてきただけなのに、何がいけないんだ。  床の上の肉塊にうずもれ、憎しみの言葉を耳元で囁かれながら、俺はもう幾つめかも分からない人面瘡を飲み下していた。  ――探偵が、肩で息をしながら、宙に向かって話しかけているのが聞こえる。  この俺が、こんな目に遭ってるっていうのに。  誰と、何を話してるんだよ……。 「……ずっと、何処かで見ているのでしょう。この者を利用し、僕のことを偽の依頼でおびき寄せたのは、貴方ですね。  いい加減に――姿を、現しなさい」  ぱち、ぱち、ぱち。とノイズ混じりの拍手の音がゆっくりと響いた。俺の連絡用パソコンのディスプレイが作動し、映し出される映像。  カラフルなパーカー。フードを目深に被っている上に、つるりとしたのっぺらぼうの仮面を付けていて顔は見えない。  『あの人』だ! 俺に、嘘の依頼で探偵を連れ出して捕えるよう告げた『あの人』の姿。 『ククク――やっと逢えましたね。『七十刈(なそかり)万世(まよ)』  いつもと違う――ボイスチェンジャーで加工された声。  探偵の目付きが変わった。 『ワタシは――『』。  今は、そう名乗っておきましょう。  伝わっていましたよ。ずっとワタシに逢いたがっていたのでしょう。なにせ自分を餌にしてワタシを釣り上げようとなさるくらいだ。わざわざ『七十刈(なそかり)』の名を出して衆目の前に存在を晒したのも、その為ですね。露骨すぎて失笑しましたよ』 「依頼を持ちかけられた時――直感しました。  罪を暴かれたいのでなければ、犯罪者が真実を明かす探偵をすすんで犯行現場に招くような真似はしません。ならば――この依頼は彼の意志ではない。僕そのものに強い拘りを持つ者が仕組んだ罠。  真実に繋がるかもしれない糸。たとえ罠であろうと、どんな目に遭おうと、辿」 『ご名答。理解が早くて素晴らしいですね。  喜びましょう、この出逢いを。なんという僥倖でしょう。ワタシ達は求め合い、とうとう互いを見つけ出すことが出来たのですから』  話が読めない。  喉が苦しい。からだが、重くて、痒い。自分の体が自分じゃないみたいだ。 『――もうお気付きの通りです。大正解ですよ。アナタが探していた相手――『七十刈村(なそかりむら)』の連中を皆殺しにしたのは、他でもないこのワタシ。  あぁ、まだアナタが残っているから『皆殺し』ではありませんね。言葉は正確に使わなくては。あの状況でどうやって生き延びたかは知りませんが』 「――お前はだ。何故、あんなことを」 『『七十刈(なそかり)』ならば、ご自分でお考えになってくださいな』  画面越しの問答。俺にとってはもうどうでもいい。誰か、俺に纏わりついて離れないこいつらを引き剥がしてくれ。  くるしい。だれか…………。  たすけて。 『あぁところで。  特別製の『呪液(じゅえき)』はお口に合いましたか。味わって頂けて光栄ですよ。死と絶望の味は格別でしょう』 「――……ふざけた真似を。と分かっていて、無関係な者達の命を犠牲にしたのですか」 『勿論、こんなものでアナタをどうこう出来るとは思っていませんよ。しいていうなら心ばかりの『』です。  まだまだ序の口ですよ。  ワタシはこの世界に、悪意に満ちた『儺詛(ナゾ)』をめいっぱい振り撒いて差し上げるつもりです。ワタシの『儺詛(ナゾ)』はじわじわとアナタを侵食し、真綿で首を絞めるように追い詰めていくでしょう。アナタから全てを奪っていくでしょう。生まれてきたことを後悔すればいい。いっそあの時死んでいたらと思うくらいに絶望すればいい。  。  楽しみですね。『七十刈(なそかり)万世(まよ)
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