430人が本棚に入れています
本棚に追加
八壁君が自らの小説のキャラクター論を饒舌に語っているのを、お猪口を傾けながら観察する。既に二本目の冷酒が空こうとしていた。私のペースにつられてかなり酔いが回り出しているらしい。顔全体から首にかけて紅潮している様子だ。
人の建前を綺麗さっぱり引っぺがすのが大好きな私は、この状況に乗じて、彼に一石を投じてみることにした。
「――八壁君。
万世君みたいなタイプ、実は好きじゃないでしょう」
にぃと笑いかけると、鳩が豆鉄砲を食らったような――という例えがぴったりな表情でこちらを見つめてくる。
これは私の肌感覚のようなものだ。複雑に入り組んだ現代社会において、仕事とプライベートの感情をすっぱりと切り離している人間は多い。仕事上親密に取引している間柄でも、一個人としては生理的に受け付けず、ひた隠しにしながら接している、という例もよく聞く。
「……いやぁ。どうしてそう思うんです?」
「君よりは長く生きているから、分かるよ。言葉の端々に棘があったからね」
「――意地悪だなぁ、先生」
「あっはっは。否定しないよ。誰に言うわけでもないし、酒の席での発言なんて泡沫の夢みたいなものさ。少しくらい溜まった毒を出しても咎める者なんていないと思うけどね」
彼はぱちくりと吊り気味の目をしばたかせ、少しばかり陰のある表情を浮かべた。お猪口の中に残っていた酒をくいっと呑み干した後、耳元にかかる少し長めの髪をかき上げ、自嘲気味に溜息をつく。
「……これは、完全に自分の問題なんですけどね。
あぁいう方を見ているとね。
どうにも、自分の劣等感を刺激されてしまうんですよ」
最初のコメントを投稿しよう!