第十三話「わたしはだれだ」~夢に出る女~

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 万世(まよ)先生がほんの一瞬滲ませた只ならぬ気配を即座に察知したらしく。 「そか、無理なもんはしゃーねぇ。じゃ、宜しく頼むわミルミル!」 「あぁ……うん」  それ以上深く詮索せずさらっと流すと、五夢(いつむ)はこちらに向きなおった。誰しも触れられたくない事があるものだ――と身をもって知る彼だからこその気遣いに違いない。 「もし同じ夢を見られたとして、二月(ふたつき)君の夢の中で七五三(しめ)君は観客であり透明人間のような存在です。様子を見ることは出来ても、働きかけることは出来ません。逆にあちらから認識されることもないでしょうから子細に観察して手がかりを見つけてください。それが君の役目です」 「つまり干渉(カンショウ)出来ないけど鑑賞(カンショウ)出来る、ということですね。理解しました」 「……七五三(しめ)君。貴方、だんだん都九見(つぐみ)さんに似てきていませんか」 「えっ。あっ……今のは駄洒落じゃなくて、たまたまですよ!? そんな顔しないでくださいよ! やだなぁもう」  無意識に口に出てしまった駄洒落もどきを慌てて取り消しながら、先生の眉間に寄った細かいしわを指でぐにぐに伸ばす。あの底意地の悪いオジサンに似てきたなんて不名誉にもほどがある。 「ちぇ。ってことは結局夢の中ではボク一人ってことか。ま、姿は見えなくても隣にミルミルが居るって思えば心強いけど」 「二月君は――まずはその女性がご存命かそうでないか確かめてください。今後の対応が変わってきますので」 「どーやって確認するのさ。カノジョどっから来たの? 墓地住みー? とか聞いちゃうワケ?」  おいおい、ナンパじゃないんだから。 「お墓の無い方もいらっしゃいますからその聞き方はいけません。……感覚的なものですが、まずはその女性がどのような雰囲気を纏っているか、君に対してどのような念を差し向けているのか、五感を研ぎ澄ませてありのままを感じ取ってみて下さい」 「マジか。今までビビってあっちに意識向けないよーにしてきたけど――やってみるわ」  五夢(いつむ)がこくりと頷いた。覚悟を決めたらしい。 「あと――今晩はへの投稿は一切控えてください」 「うぇぇなんで!? 見るだけならいいよね? それも駄目?」 「何が原因になっているか分かりませんし、確かめたいことがあるので。見るだけなら構いませんが、君から情報発信はしないように」 「……マジヤバ……耐えられっかな」  励ますものの、インフルエンサーでSNS中毒の友人にとってはこの言いつけがかなりキツイようだ。一段と萎れてしまった。デコレーションされたカバーに収まったスマートフォンの画面を悲しそうに指ですりすりしている。  生き甲斐や心の救いになっているものを取り上げられる辛さは想像に余りある。ぼくが自分の立場で考えるなら――この七十刈(なそかり)探偵舎での生活をやめろ、と急に言われたら愕然として目の前が真っ暗になってしまうに違いないから。
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