430人が本棚に入れています
本棚に追加
支度を整えて、二人してぼくの部屋へ。
ベッド脇に自分の服や荷物を適当にまとめると、五夢は勢いよく寝床に滑り込んだ。
「ミルのベッドなう! 広いねー」
ごろごろと転がりながら、寝そべったぼくらのパジャマ姿の写真を早速スマートフォンのカメラに収めている。
「先生にさっき言われた通りSNSに上げちゃ駄目だからね」
「わーってるって。SNSに投稿するためじゃなく純粋に写真撮るの久しぶりだわ。なんか新鮮。それにしてもさー……ミルの顔ってほんと綺麗だよね。睫毛も金色で長いしさぁー。羨ましいことこの上ない!」
互いの睫毛の先まで見える距離。
友人がふざけた調子で子犬みたいにじゃれてくる。「お前なぁ」といつもみたいに嗜めようとして、やめた。ひとたび眠ればまた例の恐ろしい女性が現れるだろう不安な状況下で、五夢なりに空元気を絞り出しているのだろう。
「睫毛が長いのは五夢もだろ」
「分かる? 毎晩美容液塗って睫毛育成してっから」
「育ってる育ってる」
「余計カワイクなっちゃうヤツな!」
メイクを落としてすっぴんになっても、薄暗がりで見る五夢はくりっと目が大きく、頬や唇にもうっすらと紅色が差していて中性的な雰囲気を纏っている。甘めの女顔なのでボーイッシュな女の子にすら見える。しかし悪戯っぽく浮かべた表情やしっかりした筋肉質な手足の感触は、ぼくよりずっと男っぽい。
既存の「男らしさ」とか「女らしさ」のカテゴライズに、彼はあまりとらわれない。メンズだろうとレディースだろうと自分に似合うと思う価値観を積極的に取り入れて「自分らしさ」を追求している。右に倣えではなく。そんな姿が彼の大勢のフォロワー達を惹き付けているのかもしれない。
「……五夢、眠れそう?」
「あー……そろそろだわ」
人との距離感というものがよく分かっていないぼくだけど、自分以外の気配がこんなに近くにあるのはやっぱり少しそわそわする。
でも不思議と温かい。
誰かの存在や体温がすぐ傍にあるのって意外と心地良いんだな。
あまりぬくぬくしてもいられない状況だけれど。
「大丈夫。今日はぼくもいるし」
「――ん。サンキュな」
常日頃より幾分しおらしい感じで笑う。
枕を並べたぼくらは程なくして夢の中へと沈み込んでいった。
最初のコメントを投稿しよう!