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「心当たりっつってもなー……」
「近頃怪しい物品を誰かから贈られたことは? 通りがかりに呪文めいた文言を唱えられたことは? 髪の毛一本、お札一枚でも近くにあれば、生霊は君の元へ辿り着くことが出来ますから」
「無い無い! そりゃ確かにファンの子とかカノジョからプレゼント渡されることもあるけどさぁ――今は何も持ってないハズだよ」
朝食を終えたところで、一旦みんなで五夢の鞄をひっくり返してみる。スマートフォン、ブランド物の長財布、定期入れ、キーケース。メイク用具一式。筆記用具とノート、大学で使う教科書類。あとは――既に半分程になっているタバコ。オイルライターと携帯灰皿。
SNS映えを意識して集められてはいるものの、ごく日常的な品ばかりだ。
「おかしいですね――呪の核になるものがあればと思ったのですが」
「んなヤベェモン持ってたらとっくにカピに伝えてるって」
「見た目だけで判断してはいけませんよ。うちにある黒電話だって元々は呪われた品でしたからね」
「えっ、ぼくめちゃくちゃ使いまくってますけど?!」
「――呪いを解いてあるので今は無害ですよ。現役で働いてくれているので有難いことです。……ごくたまにその名残で電話が通じてもいないのに受話器の向こうから啜り泣きが聞こえてくることもありますが」
知らなかった。なるべく啜り泣きタイムに出くわさないことを祈りながら、今は五夢のことに集中することにした。
「では――女性に恨まれるようなことをした覚えは」
「それは――ありすぎる!」
「堂々と言う事じゃないだろ。何したのさ」
おいおい。やっぱりか。
正直――五夢の女性関係の派手さは目に余るところがある。付き合う相手をころころ変えているし、会うたびに違う『カノジョ』を連れているのだ。頭を抱えたぼくをよそに、きりっとした真面目な面持ちで彼は続ける。
「付き合ってて別れる時とか、告白されてお断りする時は、大概こっちがスゲー嫌われる方向に持ってってるかんね。そりゃ恨まれることもあるっしょ」
「……何故、わざわざそんなことを?」
万世先生が不思議そうに聞く。純粋に疑問なのだろう。先生も、ぼくの見立てでは色恋沙汰については疎くていらっしゃるはずだ。関心があるかどうかも怪しい。
「良い思い出としてその子の中にだらだら残っちまうよりも、悪者になって『こんな奴無理。サイテー!』って思ってもらえたほうが、相手の子がさっさと吹っ切れて次行けるでしょ。どうにもならないのに、中途半端なこと言って希望を残しちまうだけザンコクだとボクは思う。ご縁の無かった相手の中でも好かれたい、良い奴でい続けたいなんて男のエゴじゃん。
ボクだって女の子大好きだし、色んな子とお近づきになりたいけど、どのみち最終的には誰か一人の相手を選んで、一緒に人生生きてくことになるんだからさ。ハンパなことしたくねぇの」
「――そういうものでしょうか」
不真面目なんだか真面目なんだか分からない。
万世先生もよく分かっていない様子だ。
「――とにかく。生霊を飛ばしている者を特定し、一刻も早く事態を収束しなくてはいけません。長引くと二月君の命に関わります」
そういえば。夢の女はだんだん五夢に近付いてきている。昨晩だって五夢との距離を一気に詰めていた。彼の元に辿り着いてしまうのは、もう時間の問題だ。その時に一体何が起こるのか――想像すらしたくない。
「でも……どうしましょう。ぼくらが見た夢では――女性は『いつも見てるのに』と言ってました。いつむ~みん★のSNSのフォロワーだったら数万人単位なので特定しようがないですよ!?」
「画面の向こうの遠い存在に『気付いてくれない』という言い方はしません。気付かないことが普通ですから。生霊は二月君の行動圏内にいる人物ですよ」
先生の言葉をきっかけに、ぼくらは最近の五夢周りの女性関係を辿ることに決めたのだった。
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