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お風呂に入り部屋に戻ると、五夢がにやにやしながらぼくを待ち受けていた。
「眠れない夜はコレ! 今夜はオカルト☆ナイト! ひゅ~!」
などと言い出し、厳選したオカルトB級映画を観ると言う。下手をすれば命が危ないと言うのに、自分のおかれた状況が分かっているのだろうか。空元気が一周回ってあさっての方向へと突き抜けてしまっている。
包丁を持った人形がファンキーにカップル達のことを追いかけてくるアメリカ映画や、呪いの電話がしつこいほどにかかってくる日本映画、悪魔崇拝のカルト屋敷に引き取られた孤児の少女が懸命に脱出するイタリア映画など――三本ばかり見たところで時計を確認する。
「そろそろ寝ようか」
と二人で話し、今夜は五夢のベッドで眠ることにする。荷物や脱いだ服を枕元にまとめ、寝間着に着替えて布団を被ったところでティロンティロン、とスマホでまた自撮りする音。画面を見ると、ぼくと五夢がベッドに横になっているツーショットが激写されていた。全くいかがわしくないはずなのに、フィルターの色合いのせいか写し方のせいか、ちょっとあやしい感じに見えてしまう。
「五夢。勝手に撮るなよ」
「もうSNSに投稿していいってカピ先生が言ってたもんね。イケメンのミルが一緒に写ったら写真の伸びが良いし、ボクのベッドに他の人が寝てるなんてボクのことずっと見てる『生霊』からすれば憤死モノだろ。あっちが尻尾出さねぇならこっちから見せつけてやんよ。そーれ『匂わせ』投下!」
「いやいや! やめろよ付き合ってないから!」
すかさずツッコミを入れるも、もう手遅れらしい。
ぼくと彼のスマートフォンが夜の間もぶんぶん鳴り響いているのは、きっと彼のSNSの写真がバズっているからなのだろう。
その夜。
同じように彼の夢にお邪魔するはずが。
ぼくも――とんでもない夢を見てしまった。
ぼくに向かって、
「オマエハダレダ――!」
と叫ぶ、髪の長い女性にひたすら追いかけられる悪夢を。
*
「ミル、ミル! 起きて――!」
「――はぁ……はぁ……ハッ!」
五夢の呼びかけで、ぼくはどうにか現実に戻ってこられた。
もう少しで夢の女に追いつかれて殺されるところだった。危なかった。全身に大量の汗をかいている。心臓が弾け飛びそうに早鐘を打っている。
「ずっとうなされてたけど、どうしたんだよ。何があった!?」
夢の内容を照らし合わせる。
彼は昨日と同じ「ワタシハダレダ」女の夢を見たらしい。予想通り、だんだん距離が近づいていて、もう手が届きそうな距離にまで迫っているのだと言う。ぼくが見た夢で「オマエハダレダ」と叫んでいたのも、おそらくは同じ女性だった。逃げるのに必死でちゃんと観察出来ていないけれど。
どうやらぼく達は内容の違う夢をそれぞれに見ていたようだ。寝る前に怖い映画を見ていたというだけでは説明がつかない。
一大事だ。
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