第十三話「わたしはだれだ」~夢に出る女~

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 朝ごはんを済ませ、急いで探偵舎へ。  帰るやいなや、ちゃぶ台で朝ごはんをまぐまぐと()んでいた万世(まよ)先生に、すぐさま昨晩の異変を報告した。 「――というわけなんです! 夢の中の女性は、完全にぼくのことが見えていたし、認識している様子でした。ということは、ぼくの夢の中にも全く同じ人が現れたってことですよね?」 「……おかしいですね。生霊が七五三(しめ)君のもとへ出て来る為には、君に対しても何らかの術を仕掛けなければならないはず。術の核となるものが身近にあるはずなのですが――」 「昨日はずっと五夢(いつむ)と共同生活してましたけど、特に誰かに何かされたとかも無かったですし、怪しい物を手にすることもありませんでしたよ」  二人でお揃いの物なんて持っていないし、昨日一緒に買ったものは昨日のうちに消費してしまっている。 「SNSでイイネは沢山稼いだけどねー」 「こら五夢(いつむ)」 「……成程。と、なると――」  万世(まよ)先生はぼくらを見て暫く何か思案したのちに、いきなりぼくの腕を掴むやいなや、「えい」と体を床に転がしその上に乗り上げてきた。無言でぼくの服をごそごそとまさぐってくる。 「わ、あ、ちょ、えっ――!?」  大した重さでもない。不快でも無い。けれどくすぐったいし、近いし、全く訳が分からない。脈絡のない先生の奇行はいつものことだけど、分かっていても心臓が大きく跳ね上がる。待ってほしい。せめて言葉で前もって説明してほしい。崇敬してやまない先生に出来るだけ近付きたいと常日頃から純粋に思っているけれど、急に距離を詰められると心の準備がまるで整わない。服越しに動揺が伝わってしまいそうで気が気でない。五夢(いつむ)億良(おくら)だって見ているのに。色々よろしくない。 「せっ、先生! いけません! そんなご無体(むたい)な……」 「――」 「へっ?」  決死の思いで押し退けさせて頂こうと両手を差し出しかけた時、万世(まよ)先生の動きが止まった。何かを見つけ出したらしい。お(ふだ)のようなものを指の間に挟んでぴっと掲げている。何だろう。着ていた服に知らないうちにお(ふだ)でも貼り付けられていたのか?  いや、違う。はまさか――! 「……どうして? が?」 「びっくりしたー。何見せられてんだろ、って意識が虚無(きょむ)りかけたけど――とうとう答え見つかったわけ? カピセンセ」 「ええ」  先生がよく通る声で宣言した。 「――これで、儺詛(ナゾ)が解けますよ」
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