第十三話「わたしはだれだ」~夢に出る女~

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 その後。五夢(いつむ)は妙な夢を見ることもなくなり、無事にぐっすりと眠れるようになったという報告をもらった。 『二人とも本当にアリガト! お陰で助かったよ~。万事解決☆ 今度はボクのおごりで皆で()えるカフェ行こ~!!』  SINE(サイン)アプリでメッセージと共に、派手にちかちかと動く『ありがとう』スタンプが幾つも幾つも送信されてきたので、安堵する。元通りの五夢(いつむ)だ。事件解決の翌日は、熟睡しすぎて昼過ぎまで目が覚めず結局授業に遅刻してしまったらしい。 「今回もお手柄ですね! 先生に相談して良かったです」 「――僕は大したことはしていませんよ。君達の尽力の結果です。友人の為によく頑張りましたね、七五三(しめ)君」 「えへへ。いいですよ。どんどん褒めてください! ぼくは褒めて伸ばすタイプの優秀な助手ですからね」  屈んで頭を差し出す。先生は無表情を保ったまま、ぼくと億良(おくら)の頭を代わる代わる撫でてくれた。髪の毛をさらさらと梳くぎこちない指がくすぐったいけれど心地良い。この幸せで穏やかな時間がいつまでも続いてほしいと思う。 「ところで先生。少し気になったことが」  ひとしきり気力を充填したところで、ぼくは元気良く上半身を起こし、探偵舎の広報用に使っているタブレットの画面を先生方にお見せした。 「彼女が誰から『おまじない』を教わったのかぼくなりに色々調べていたら、こんなものを見つけたんです」  SNSで大流行中の――『マジナイチャンネル』。  願いを叶える特別なおまじないを教えてくれるという触れ込みで、ここ半年くらいの間に若者を中心に広く支持者を集めている動画配信チャンネルだ。「物凄い効果だった」「本当に願いが叶った」という口コミが異様に多く、社会現象のような人気ぶりになっているらしい。  でも――困ったことに足取りが全く掴めない。  ゲリラ的にSNS上に突然現れては、リアルタイム配信で『おまじない』を拡散した後、煙のように消えていく。その繰り返し。まさに神出鬼没の不可解なアカウント。もはや都市伝説的存在になっていて、まとめサイトやファンコミュニティが幾つも存在している。  夏頃から出現頻度が徐々に上がっているらしい。現れるたびにSNSのトレンドランキングの上位に食い込んでくる。 「『マジナイチャンネル』。  一体誰が何の目的でやってるんでしょうね。  関係があるかもしれないので、あの店員さんに本当のことを聞こうとしたんですが、記憶が抜け落ちてしまったみたいにとぼけて何も教えてくれなかったんですよ――いよいよ『なぞ』が深まりますね」 「えぇ……とても、嫌な感じがします。深く果てしない『なぞ』の気配が迫っている。気を付けなくてはいけません」  タブレットの画面を鋭く睨みつけながら、万世(まよ)先生がぼそりと呟く。  先生のこういう第六感はよく当たる。けれど、どうか出来るだけ当たらないでほしい――とぼくは内心で強く願った。  数多町(あまたちょう)七十刈(なそかり)探偵舎(たんていしゃ)  第十三話「わたしはだれだ」 終  
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