第十四話「まよです」~猫とシールと認識汚染~

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 グッズと言ってもお店の売りものじゃない。  非売品で、どうやって配布されているのかも分からない。  なのにどこからともなく出回って、若者達の間で加速度的に広まっている。気味が悪いくらいに。  SNSの著名なインフルエンサー達が、持ち物にワンポイントとして貼りつけた写真や動画をアップし始めたことで「なんか謎めいててカッコイイ」と話題になり一気に人気に火が付いた。  持っていること自体がステータスになるのだと言う。  おまけに「貼ることで願いが叶う」だとか「剥がされなければ幸せが続く」なんて無責任きわまりないオカルトな噂まで立って、そこら中にシールを貼りつけるイタズラが後を絶たない。そんなことで幸せになれるのなら誰も苦労なんてしない。 「まぁーぉ。まぁーぉ」 「うわ。また貼られてるよ……迷惑だなぁ」  探偵舎の玄関前の柱や、周囲のコンクリート壁に貼られた無数のシールをべりべりと剥がしながら、このぼく――七五三(しめ) (ミル)は肩を竦めた。探偵猫の億良(おくら)が、いち早く異変を察知してぼくに教えてくれたのだ。残念ながら犯人を見つけることは出来なかったけれど。  もうこれで何度目になるだろう。  迷路のように道が入り組んでいる上に、治安が悪いと悪名高いこの迷宮通にまでわざわざシールを貼りに来るなんて。大体うちの事務所は路地裏の一番奥にあるから、まともに辿り着くことさえ難しいはずなのに。  一見廃墟のように見えなくもない外観なので、ここに貼っておけば剥がされないとでも思ったのだろうか……? 「あ。ミルミル。オクラちゃん。どったのー?」  ぼろぼろの木の壁に残ってしまった白い粘着シールをきれいに雑巾で拭きとっていたら、丁度我が友――二月(ふたつき) 五夢(いつむ)の声がした。彼は学友のぼくは勿論、うちの万世(まよ)先生とも仲が良い。すっかりこの探偵舎を放課後の遊び場にしている。  挨拶しようと顔を上げたところで――ぼくの視線は、彼が手に持っているピンク色のスマートフォンに釘付けになってしまった。  ケースの裏側にでかでかと。  例の『』が貼りつけられていたから。 ce0510ec-5547-4479-a7e5-9df81ea9cfd7
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