第十四話「まよです」~猫とシールと認識汚染~

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「わ、わ、五夢(いつむ)、それ――!」 「え、何何? それってどれよ」 「それ! そのシール! 目の!」  あーメメメか、とスマホごと手渡して見せてくれる。シールに描かれた三つの目玉と視線が合ったような感じがした。不気味だ。 「ビッグウェーブに乗りまくるいつむ~みん★として、やっぱオシャレな流行り物は押さえときたいじゃん? いかにもオカルティックだし。ボク、別に悩んでることも無いし、おまじない云々は別にどっちでもいいんだけどさー」  カラコンの入った大きな瞳をきらきらさせながら、あっけらかんと言い放つ。そうだ。彼も、ジェンダーレス男子としてSNSで流行の最先端をひた走るおしゃれインフルエンサーの一人なのだった。  今日もヴィンテージ風のアバンギャルドな柄シャツと、細身のダメージジーンズに身を包んでいる。少し伸びた髪は今はピンクブラウンだ。相変わらず一見華奢な女の子に見える。中身は武闘派だけど。 「その、メメメシールさ……何故かうちにもいっぱい貼られて迷惑してるんだよ。非売品らしいけど一体どうやって手に入れたのさ?」 「たまたまオカ研の子が何枚か持ってたから、一枚メメメシェアしてもらったワケ! よそに比べてうちの大学周りでやたら出回ってんなーって思ってたら……実は内に、大量に仕掛けてる奴がいるらしいって聞いたよ。ま、噂だけど」  何だって? もしその話が本当だとしたら。 「うちの大学でシールを配っている何者かが――メメメシールの元々のかもしれない。はっきりと断言出来るわけじゃけど……」 「マジか! じゃあ、今話題のマジナイチャンネル(マジチャ)だったりして!」  会えたらすごくね? いつむ~みん★とコラボ動画出来るかも! と五夢(いつむ)が呑気に笑っている。  神出鬼没で正体不明の『マジナイチャンネル』は、もはや都市伝説的な存在だ。全てが謎に包まれている。  配信者の正体も、一体何の為にやっているのかも分からない。ただ、そこで紹介された『おまじない』が、とんでもなく効果絶大だという逸話の数々だけが独り歩きしている状態だ。 「でもさ。何でメメメシールが気になるワケ? ミルも欲しいの?」 「シールもそうだけど……ぼく、『マジナイチャンネル』がどうしても気になって。この間、五夢(いつむ)に取り憑いた『生霊』の事件あったじゃない。もしかしたら『マジナイチャンネル』のおまじないが関係してる可能性があるんだ」 「げ。あの『ワタシハダレダ』女か! 思い出したくもねぇわ……」  ――先日ぼくらが解決した『ワタシハダレダ女』事件。  相手の夢を縛り、生霊を飛ばすという恐るべき手段を用いてきた犯人は――『マジナイチャンネル』で紹介されたを実行していたんじゃないかと、ぼくは疑っている。結局確証を掴むことは出来なかったけど。 「だから、調べたいんだ」  足下の探偵猫、億良(おくら)と目が合った。  小さな顔に光る金色の知的な双眸。  彼女も同じ考えらしい。 「にゃぁ」  と一鳴きし、すんと居住まいを正した。  大学近辺に居るのが運営者本人かどうかは分からないけど――もしメメメシールの出所が分かれば『マジナイチャンネル』をやっている人物の正体に迫ることが出来るかもしれない。  アドバイザーとして探偵舎の主である、七十刈(なそかり) 万世(まよ)先生も一緒に連れ出す算段をつけ――ぼくらは、日をあらためて五ツ橋(いつつばし)大学へと乗り込むことにした。
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