第十四話「まよです」~猫とシールと認識汚染~

12/15
前へ
/318ページ
次へ
 私が部屋の隅から引っ張り出してきたのは――ツグミの『白衣』。  そしてゴミ箱に棄てられていた『メメメシール』。  そう。  彼らが認識を乗っ取られた理由は、。  黒を纏った何かが「まよです」などと宣言すれば、ナソカリが常に黒づくめの服装であることを知る者の脳裏には「もしかしたら目の前のコレはナソカリなのではないか」という可能性がよぎってしまうはずだ。どんなに信じがたい状況であっても、一度でも考えが浮かべば付け入る隙となる。  その一瞬の隙をついて、相手の認識に入り込む。  それが奴のやり口だ。  だとしたら――その根底条件から、崩してやればいい! 『ま、よ、で――』 『――お前がナソカリであるものか!』  急いでツグミの白衣を胴体部分にぐるぐると巻きつけ。  名乗り続ける口元の穴をメメメシールでぺたりと塞いでやった。 「――あ、れ? ぼく……何を……っ」 「つぁー! ……なんか、アッタマいって――え、何これ……人形!?」  やったぞ! 黒を白に上書きし、名乗りを封じることで無効化に成功したようだ。  はっと我に返ったシメミルとイツムの動きが止まる。頭を抱えてその場に蹲っている。直接脳に干渉されていたのだ――術が解けて一気に反動に襲われているのだろう。  間もなく扉が開き――ナソカリとツグミが姿を現した。  研究室内の有り様を目の当たりにして、立ち竦んでいる。 「おや。ただ事じゃなさそうだね」 「――君達……これは一体。大丈夫ですか!」  ナソカリが慌ててシメミルとイツムに駆け寄り、背中をさする。 「万世(まよ)です。君達、僕のことが分かりますか?」 「カ、ピ……? あれ、さっきまでずっと一緒じゃ……」 「あ――万世(まよ)、先生……すみません、ぼく……」 「いいです。無理に喋らないで……少し休んでいてください」  二人を研究室のソファで休ませると、ナソカリは私のほうに向きなおった。声など要らない。目と目で会話を交わし、私達は事の次第を静かにすみやかに共有する。 「……億良(おくら)。貴女が何とかしてくれたのですね」  疲れ果てた体を探偵らしくしゃんと正し。  私は、いかにも得意げに鼻を鳴らしてみせた。    
/318ページ

最初のコメントを投稿しよう!

430人が本棚に入れています
本棚に追加