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私が部屋の隅から引っ張り出してきたのは――ツグミの『白衣』。
そしてゴミ箱に棄てられていた『メメメシール』。
そう。
彼らが認識を乗っ取られた理由は、色と名乗り。
黒を纏った何かが「まよです」などと宣言すれば、ナソカリが常に黒づくめの服装であることを知る者の脳裏には「もしかしたら目の前のコレはナソカリなのではないか」という可能性がよぎってしまうはずだ。どんなに信じがたい状況であっても、一度でも考えが浮かべば付け入る隙となる。
その一瞬の隙をついて、相手の認識に入り込む。
それが奴のやり口だ。
だとしたら――その根底条件から、崩してやればいい!
『ま、よ、で――』
『――お前がナソカリであるものか!』
急いでツグミの白衣を胴体部分にぐるぐると巻きつけ。
名乗り続ける口元の穴をメメメシールでぺたりと塞いでやった。
「――あ、れ? ぼく……何を……っ」
「つぁー! ……なんか、アッタマいって――え、何これ……人形!?」
やったぞ! 黒を白に上書きし、名乗りを封じることで無効化に成功したようだ。
はっと我に返ったシメミルとイツムの動きが止まる。頭を抱えてその場に蹲っている。直接脳に干渉されていたのだ――術が解けて一気に反動に襲われているのだろう。
間もなく扉が開き――ナソカリとツグミが姿を現した。
研究室内の有り様を目の当たりにして、立ち竦んでいる。
「おや。ただ事じゃなさそうだね」
「――君達……これは一体。大丈夫ですか!」
ナソカリが慌ててシメミルとイツムに駆け寄り、背中をさする。
「万世です。君達、僕のことが分かりますか?」
「カ、ピ……? あれ、さっきまでずっと一緒じゃ……」
「あ――万世、先生……すみません、ぼく……」
「いいです。無理に喋らないで……少し休んでいてください」
二人を研究室のソファで休ませると、ナソカリは私のほうに向きなおった。声など要らない。目と目で会話を交わし、私達は事の次第を静かにすみやかに共有する。
「……億良。貴女が何とかしてくれたのですね」
疲れ果てた体を探偵らしくしゃんと正し。
私は、いかにも得意げに鼻を鳴らしてみせた。
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