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幕間「千姿万態」~それぞれの思惑~
今回の動画撮影を終えたワタシは、ペンキを乱雑に零したような極彩色のパーカーと虹色の手袋を脱ぎ捨て、椅子に深々と腰かけた。
余計なものが映り込んでいないか、字幕に不備は無いか、音声の加工が厳重に施されているかを手早く校閲しながら、ついでに世の動向を探るべくSNSを起動する。
「メメメシール――か」
明滅するコンピュータの文字を見つめる。
いかにも――言い得て妙ではないか。メメメ、とはね。面白い。
案外『物を考えない』群集どものほうが、真理に近い部分を突いてくるものだ。集合意識の為せる業だろうか。何も気付かずに、偶然答えに肉薄した発想を打ち出してくる。
コレにそんな名を付けた覚えは無いが――悪くはない。
額をすっと撫で上げ、ワタシは顕れた『証』――三つめの眼を自分の指で確かめる。
壁に貼りつけてある引き延ばした写真に三重になった視線をやる。
その中で、ぼさぼさ髪の黒衣がこちらを睨みつけている。
――『七十刈 万世』。
憎々しくも、そう、名乗っている者。
分不相応に。
「否定して、否定して、否定してあげましょう」
顰めた顔を汚すように、油性マジックの太いペン先を軽やかに滑らせる。
大きな『×』を三つ付けると、ワタシは喉の奥をクククと鳴らした。
数多町七十刈探偵舎
幕間『千姿万態』
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