幕間「千姿万態」~それぞれの思惑~

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「……五夢(いつむ)、どう? そっちはノーメメメ?」 「カンペキノーメメメ! 三回くらい見返したしバッチシ!」 「良し。じゃあ次はあっちの部屋ね」  ぼくと五夢(いつむ)はここ『七十刈(なそかり)探偵舎』の事務所内をくまなく見回っていた。例の『メメメシール』が近場に貼られていないかをチェックする為だ。万世(まよ)先生いわく、あのシールには『窃視(せっし)の呪』という術が施されていて、どこかの何者かが監視カメラ代わりにしているらしい。とんでもない事を考える奴もいるものだ。もしシールを見過ごしてしまったら、こちらの動向が筒抜けになってしまう。 「にゃあ」 「あ、億良(おくら)。そっちも大丈夫だったんだね。有難う」  玄関先を確認してくれていた探偵猫の億良(おくら)も一鳴きしながら戻ってきた。どうやら異常は無かったようで、胸を撫で下ろす。 「先生。探偵舎の周りは確認してきました。大丈夫そうです」 「――どうも。ご苦労様でした」  難しい顔で資料を眺めていた、ここの主――七十刈(なそかり) 万世(まよ)先生がゆっくりと顔を上げた。常の通り、黒いひらひらした長袖の装束にきっちり身を包んでいる。顔と両手首以外の肌は一切見えない。  あらゆる色を打ち消す『黒』は、最も呪詛に干渉されづらい色なのだそうだ。だから先生が纏う色はいつも黒一色ばかりだった。そう決められていたらしい。  万世(まよ)先生と言えば黒。黒づくめの万世(まよ)先生。  その『認識』が――前回、ぼくらを罠へと(いざな)ったのだ。 「……さて、皆さん。もういいでしょう。こちらへ」  先生の前にさっと集合する、二人と一匹。  そう。何を隠そう、ぼくらが今日こんなにも入念に周りを確認して準備していたのは――ある目的の為だ。 「では――、といきましょうか」  場に緊張感が走る。  ぼくらはそれぞれにごくり、と唾を飲み込んだ。
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