430人が本棚に入れています
本棚に追加
「呪は、相手の心や認識を縛るということ。『この者はこうだ』という固定された思い込みこそ、呪の付け入る隙を生み出します。先日、大学で君達が操られてしまったように。
例えばそうですね……僕がいつも黒づくめの服を着ている、二月君は中性的な服装をする、七五三君は無地の飾り気の無い服装を好む、億良は猫である……と言ったものも、固定化された『認識』と言えるでしょうね」
「えっ。オクラちゃん、猫じゃないの?!」
「……猫ですが」
「なぁう」
そういうことではない、と億良が冷静にツッコミを入れながら五夢の肩にぴょんと飛び乗った。猫の言葉なので、多分本人の耳には届いていないけど。
確かに。先生の黒づくめの服装は勿論だけど、レディースファッションを取り入れた中性的なおしゃれを楽しんでいるのが五夢らしさだし、ぼくはぼくで量販店の無難なコットン地のシャツやシンプルなチノパンを選びがちだ。服だけ並べて置かれていても誰のものかすぐに分かる。
億良のこともそうだ。一緒に過ごしている大切な家族だからか、最近しなやかな猫のシルエットを目にすると、真っ先に彼女のことを考えてしまう。
ぼくの頭は割と単純明快に出来ているので、一度思い込んだなら、真っ直ぐにそれを信じ抜いてしまう。ぼく自身は決して「悪い事じゃない」と思っているけれど、相性の悪い敵が居るのもまた事実だ。
「ともあれ。頭の中でそれぞれのいめーじが出来上がってしまい、『認識』が固まってしまうほど危ういのですよ。ですので今日はそうした思い込みを軽減させます。僕らの『認識』の軸を大幅にずらすことで」
「そんなの出来るんですか! 一体どうやって?」
「単純なことです。二月君――頼んでいたものを、ここへ」
「了解! カピの頼みだしハリキってチョイスしてきたよ。ボクの得意分野だもんねー。サイズも合うと思う。はいっ、じゃーん!」
五夢が幾つかの大きな布の袋を両手に抱えて運んできた。
袋から出てきたのは――多種多様な、服? まさか。
目をぱちくりさせたぼくに、先生が真剣な面持ちで告げた。
「もう、お分かりでしょう。
――普段と全く違った格好をするんですよ」
最初のコメントを投稿しよう!