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「ニャオ――――ン」
オクライオン――モヘアで出来たたてがみ型の被り物と、ベロアの赤い王様マントを着用した億良が口を大きく開けて長々と一鳴きする。初めからそういう形態の生物だったんじゃないか……と思わせるような堂々たる佇まいに、思わず圧倒されそうになる。
さすがはプロの探偵。変装もお手の物というわけか。あらためて彼女のプロ意識とポテンシャルに敬服する。なんて頼もしい仲間なんだろう。
「……流石は億良。猫であることを忘れさせる威容ですね」
「ひゅー! オクラちゃん役者だね! 惚れるぅ」
「ニャオ――――ン」
五夢もすっかり着替えを終えていて。
明らかに不良が着るような、奇抜なデザインの改造学ランに身を包んでいた。ヤンキーもののドラマでよく見るやつだ。ハードワックスでベリーピンクの髪の毛をオールバックにセットしてある。流れるようにオクライオンとのツーショットを撮影しながら、にかっと得意げに笑む。
「コレ。分かる? ――オレが昔着てたヤツな」
「あっ」
八月の終わり頃。しゃぶしゃぶパーティーの時にこっそりと打ち明けられた、彼の『過去』の話が頭を駆け巡る。五夢は――大学に入る前、中高生の頃は毎日喧嘩に明け暮れる生粋の不良だったのだ。
その話を聞かされた時には、中性的ファッションでSNSを賑わしている彼とどうしてもイメージがうまく結びつかなかったけれど。いざ目の当たりにしてみると現実味を帯びてくる。風格を感じる。強い男の。
「けっこーあちこち拘って改造したんだぜ。身長無くてもダサく見えねぇバランスになるように調整しながら上着を短く詰めてさ。下はサルエルでも戦いやすいように足首に太いゴム入れ込んで絞って。で、背中と腕には『昇り龍』の刺繍な! デザイン画描いて、お裁縫上手な家政婦さんに頼み込んで一緒に具現化してもらったんだよ。久々に着るとやっぱキアイ入るわ」
「あはは。その頃からファッショナブルの片鱗あったんだね」
当時の五夢の『こだわり』を沢山詰めこんだ一着。過去の自分をひたすら封印してきた彼が、こうして懐かしげに振り返ることが出来ている事実に内心感動を覚える。
「どーよ。カピ! こういうオレも、ピッとしててカッコいーだろ」
「ええ。かっこいいです、二月君。『認識』が改まりましたよ」
「へへ、ありがとな!」
ぼくの時とは違って、ごく明解な感想を口にしながら右手の拳をこつんとぶつけ合っている。たびたびこの仕草を目撃するけど二人の間で挨拶代わりになっているんだろうか。マブダチ同士のサインなのか。そういえば最近、先生はぼくではなく五夢を頼りにすることが増えている気がする。ほんの僅かに心の中がもやっとしかけたのを慌てて打ち消す。
「――そんじゃ、最後はカピの番な!」
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