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かたん、と木製の椅子が音を立てる。
准教授の指先がぼくの前髪の先端をそっと掬ったので、びっくりして肩が跳ねた。いつの間にか近距離からじぃと覗き込まれている。ぼく自身はあまり好きになれないフランス人の母譲りの金髪。
「七五三君の髪は――綺麗だよねぇ。夕陽に透かすと、黄金色の麦の穂みたいだ」
優しげな言葉の調子とは裏腹に、研究対象の出土品を検分するかのようなどこか無機質な視線と手付きだった。その不調和にますます気を取られる。
「……何ですかいきなり。また何か企んでます? 褒めても料理くらいしか出ませんからね」
「あはは。他意なんて無いよ。ただの感想さ。私は素直な正直者だから」
「正直者は自ら正直者とは言いませんよ」
ニィと目を細め、両の口角を上げて完璧な笑みを形作ってくる。非の打ちどころがなさすぎてかえって胡散臭い。
「髪は内側から生えてくるものだからね。喜び、悲しみ、怒り、迷い……君の魂の様相が、多かれ少なかれここに表れているのだと思うと実に興味深い。そう言えば、筋の良い髪結いさんは、頭に触れるだけで相手の生き様や思想が概ね解ってしまうらしいよ。素人の私達にも少しくらい解るかなぁ。後学のために、ひとつ実験してみるかい」
「実験、ですか?」
「そう、実験。お互いの髪から精神の片鱗が読み取れるかどうか、実際に試してみるのさ。面白そうだろう」
唐突な提案。
学者の知的好奇心は、時として悪趣味だ。
別に付き合う道理もないのだけれど、沈みかけの三日月みたいな鋭い琥珀色の双眸に見つめられていると、不思議と抗う気力が削がれてしまった。どうにもこの人の一挙一動には、有無を言わせぬ威圧感がある気がする。
まぁ、日頃厚意で個別指導してもらっているのだから、たまには師の戯れに付き合うのもいいだろう。
「分かりました、いいですよ」
「ふふふ、良い返事だ。学問は実践♪」
「正直――何か解るとは思えないですけどね」
さて、それはどうかな――と呟くと、都九見准教授は落日を背に意味ありげな薄笑みをこぼした。
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