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どくん、と。急速に鼓動が跳ねる。
――ぼくの秘密。呪われたぼくの体質のことを言っているのか? この人はどこまで気付いているんだ? 落ち着け。ペースを乱されるんじゃない。これはきっと何かやましいことが無いか鎌をかけているんだ。人の弱みを握るために。いつもの戯れだ。ぼくは大丈夫。惑わされるな。
ゆっくりと唾を呑み込む。
「秘密? 何のことです。残念ながら心当たりありませんね」
「おや。今――動揺した? 頭皮にうっすら汗が滲んできているよ」
「強い西日が射していますので。ぼく、暑がりで汗っかきなんです。オジサンと違って若者は新陳代謝が良いんですよ」
「へぇ。二月君はともかく、君って暑がりだったかい? それは初耳だ」
「――ツグセンこそ、どうなんです。やることなすこと、いつも怪しすぎるんですよ。ぼく達に話していない秘密が結構あるんじゃないですか」
「どうかな。直接私のカミから読み取ってみたらどうだい。この通り、逃げも隠れもしないよ?」
お互いの頭部に手をかけながら、向かい合わせで視線をぶつけ合う。緊迫した空気。まるで『リアル嘘発見器』だ。この姿勢のまま硬化して、石像にでもなってしまいそうなプレッシャー。
「――大体さっきのだって、占い師の常套手段でしょう。誰にでも当て嵌まることを並べて『当たってる』『自分のことだ』って信じさせるやつですよね。解像度の甘い言葉に人は引っかかりやすいんです。今のぼくは騙されませんよ? この詐欺師!」
「鋭い着眼点だ。指導員を詐欺師呼ばわりとは、君も随分言うようになったねぇ。愛弟子の成長を実感出来るのは実に僥倖だ。興奮するよ」
互いの髪を思う様に鷲掴む。実験というよりもはや戦争だ。
視界に大写しになる金の髪と、銀の髪。
押し負けたくないあまりに熱中しすぎて、ぼくはまたもや気付くことが出来なかったのだ。研究室のドアが突然開いたことに。『来客』の上げたわざとらしい第一声に――ぼくは現場を押さえられた現行犯さながらに青褪めて立ち竦む。
「――おやおや! こいつは失礼。ちょうどお取り込み中だったとは……私もしかして、お邪魔虫でしたか?」
ポロシャツにジーンズのラフないでたち。
恒河社のオカルト専門記者――八壁 六美さんが、ニヤニヤと半笑いを浮かべて入り口から覗き込んでいた。
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