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「随分と、仲が宜しいんですねー」
「わ、わ、わ……これは違うんです!」
「――おっと、そういえば六時から雑誌取材だったね。気付かなくて悪いね、八壁君」
「いえいえ。スキャンダラスでオカルティックなシーンが見られたので、これはこれで」
「いや、誤解ですから!」
必死に場を取り繕うぼくをよそに、都九見さんはぱっとぼくから手を離し、平気な顔で客人の対応を始めている。
「人が来る予定なんだったら先に言っておいてくださいよ」
「……ふふっ。ごめんごめん、つい楽しくて時間を忘れてしまったよ」
「お二方、何なさっていたので?」
ライター怖るべし。直球でそこに切り込んでくるとは。茶色く染まった肩までのワンレンヘアをさらりと揺らしながら近寄ってくる。
「あっはっは。教え子と首実検ならぬ髪実験を少し、ね。――そういえば八壁君の髪はつるつるさらさらだよねえ。いかにもキューティクルって感じで羨ましいよ」
「分かります? こだわりのストレートパーマなんですよ。私、こう見えて地毛はナチュラル・カーリーなのでね」
「おや、それは意外だなぁ」
ヘアスタイル談議に花を咲かせ始めた男達をよそに、ぼくは荷物をまとめ始めた。そろそろ探偵舎に戻って晩御飯の支度を始めなくちゃいけない時間帯だ。万世先生と億良達が、お腹を空かせてぼくの帰りを待ってくれている。
ぼく帰ります、と一礼したところで――准教授と目が合った。
(またいつでも――かかっておいで)
丸眼鏡越しの視線が、確かにそう告げている。
乗り越えなくちゃいけない壁が、ここにある。まだ残っている髪の感触を確かめるようにして、ぼくは手のひらをぎゅっと握りしめた。
幕間『かみにまつわる』その二(終)
その三に続く
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