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すべてが終わり、きらきらと光をこぼしながら巨大な獣が崩れ落ちていくのを籠の格子越しに見守る。
私とツクモには聞こえていた。
身を爛れさせる怨憎からの解放、忘れかけていた人間への感謝の思い、共に過ごしてきた楽しき日々への懐古、そして最期に逢った人間がナソカリで良かったという安堵の言の葉が、次々に溢れながら消えていく様が。
「終わったんだね」
「ああ、終わったよ。仲間たちも静かに眠ることが出来た。後は君が家に帰るだけだ」
温かい籠の中でうとうとしながら事務所に到着する頃には、ツクモの飼い主も迎えにやって来ていた。無事に戻った彼の姿を見るやいなや滂沱の涙を流しながら、
「本当に、本当にこの子を見つけて頂いて有難うございます」
と大切に抱きかかえると何度も何度もナソカリたちに頭を下げていた。ツクモも緊張の糸が切れたのかほっとした表情を浮かべている。最初に出逢った時より若干顔付きがしっかりしたように見えるのは、きっと気のせいではないだろう。
探偵稼業を続けていると後味の悪い事件に出逢うことも沢山あるが、こうして事件を解決に導き、依頼人たちの喜びに立ち会える瞬間はやはり何物にも代えがたい。
「億良。貴方は本当に優秀な『探偵』ですね。今回は君の力が必要不可欠でした。どうも有難うございました」
我が身を籠から出したところで、ナソカリがあらためて私の素性を明かす。
「億良が――探偵?」
「えぇ。そうです。彼女は猫ですが、この探偵舎に所属してくれているれっきとした『探偵』ですよ」
ああ、そうとも。
相当驚いた様子のシメミルは、長い金の睫毛に縁取られた青い綺麗な目をぱちくりさせている。やがてしゃがみこんで私の方を覗き込むと、にっこりと人好かれしそうな微笑みを浮かべて見せた。
「ぼく、先生の助手をしながらここに置いてもらっているんだ。これからも頑張るから、同じ探偵舎の仲間として、あらためて宜しくね。一緒になぞを解いていこうね」
「ふん、任せておけ」
私の言葉は碌に人間たちには伝わらないのだろうが、どのみち私が優秀な探偵であることには違いないのだから問題なかろう。これからもこの肩書きにかけて、鋭い爪と知性を閃かせ、目の前に立ち塞がる事件を解決していくだけだ。
私の名は億良。
こう見えて、『探偵』だ。
数多町七十刈探偵舎
第二話の裏「ときねこ」 (完)
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