第三話「にせもの」~怪しい骨董店~

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 さて。そんなわけで。  これから一つ屋根の下でお世話になるので「七十刈(なそかり)先生に何か贈り物をしよう!」と思い立ったぼくは、三駅ほど電車に乗って都会の市内に到着していた。  贈り物の目星は付けてある。先生はいつも文字を見る時にレトロな銅製の虫眼鏡を使っている。蔓草みたいな細工が施されたくすんだ銅の丸い枠に、分厚いガラスが嵌まったなかなか存在感のある一品だ。あの重たそうな虫眼鏡では先生の華奢な腕が疲れてしまうに違いないので、軽くて丈夫なルーペをプレゼントしようと思ったのだ。  量販店の眼鏡屋さんには、目をつけていた『ナギサルーペ』が売られていた。テレビCMで御馴染みの、拡大率が三段階で力士が踏んでも壊れないと謳っている眼鏡タイプのルーペだ。一番上等なタイプを購入して、小ぎれいな包装紙に緑色のリボンをかけてもらった。先生のほころんだ顔を想像してひとり口元をにやつかせる。  帰り際に通りかかった駅前広場。  ちょうど『骨董市』と題するフェアが野外で開催されているのが見えた。古道具やアンティーク家具なんかの露店が集結しているらしい。  そういえば、七十刈(なそかり)探偵舎にも先生によって解呪されたらしい年代物の品々が山ほど置かれていた。実際の様子も何度か目の当たりにしている。何を隠そうぼくの先生は『呪いを解く』エキスパートなのだ。  蚤の市の品は出所が知れないものが多い。転々と持ち主を変えながら流れ着いた呪われた古い道具がさりげなく売られていてもおかしくはない。ぼくも先生の助手としてこれからますますお役に立てるように、そういう物への感覚をもっと磨いておくべきなのかもしれない。目利きはあまり出来ないけれど覗いてみる価値はありそうだ。  会場には様々なジャンルの骨董品がひしめき合っていて、雰囲気だけで圧倒されそうになった。情報量があまりにも多い。ぼくにはよく分からないけれど、どれも年月を経てきた品々なのだろう。人形、根付、陶芸、刀、着物――きっとそれぞれに今に至るまでの長い長い物語があるのだと考えると、気が遠くなりそうだ。だからこそ新品にはない不思議な空気を纏っていて、根強いコレクターたちが存在しているんだろう。  ぼくは、気になる店を順番に見て回ることにした。
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