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都九見准教授の合図で、前方のスクリーンに数多町の全体地図が大写しになる。東西南北の四方を山に囲まれた、いわゆる盆地状になっている町。南北、東西に道が伸びているのが見て取れる。
「ご覧の通り、数多町は総面積三十平方キロ、人口約三万人の規模としては小さな町ですがきれいな碁盤の目状の区画になっているのがお分かり頂けますね。地元の方は横に伸びる道を一の筋、二の筋……と筋番号で呼んでいて、縦に伸びる道に「通り」の名をつけて呼んでいます。
蘇部さんは大阪のご出身ですよね。関西の方ならこういう形式には馴染みがあるんじゃないですか?」
「ああ。ちょうど京都市のミニ版みたいなイメージやね。京都は七九四年の平安京遷都をきっかけに南北と東西の道が綺麗に整備されたわけやけど。こんな田舎やとなんか不自然な感じするわな」
「そうなんですよ。あえて計画的に区画整理されないとこのような街並みには成りえない。自然発生した集落ではなく、明らかに人の手が入った形跡があるんです。
でも不思議ですよね。八世紀の京の都のように政治文化の中心地であったならともかく、数多町はご覧の通り周囲を山に囲まれた田舎町のはず。皆さんもここまで来るのに交通面で結構不便をおかけしたんじゃありませんか? 大学ってとかく辺鄙な場所に建てられがちですよね」
言われてみれば。この町はどうして碁盤の目の形をしているんだろう。毎日通っているのに、それこそ今は住み込みまでしているというのに、そこまで深く考えたことがなかった。
「さて。この疑問に対して、私はこう推論を立てています。
数多町の街並みは――あることを隠すために人為的に作り上げられたものである、と」
准教授の銀縁眼鏡のレンズが、照明の加減できらりと光る。
「比較として、他の地方の例を出しましょう。
中国山地の北部、奥出雲地方のヤマタノオロチ伝説はご存知ですよね。日本神話に登場する、八つの頭を持つ大蛇を退治する話です。有名なので詳細は省きますが、アシナヅチとテナヅチ夫婦の八人の娘が毎年オロチへの生贄に捧げられていた村で、最後の娘クシナダヒメをスサノオノミコトが助けたエピソードはあまりにも有名です。神話にある種のロマンを求めるならば実際にそんな怪物がいたと考えたほうがきっと楽しいんでしょうけれど、この話、一説によると二千年前の弥生時代に実際に起きた大規模な土石流災害が元と言われているんです。
想像してみて下さい。あの辺りでは古くからたたら製鉄が盛んでね。燃料の木炭を得る為に山林の木を大量伐採した為に弱った地盤が、豪雨をとどめきれずに巨岩を伴って平地へと一気になだれ落ちた。八岐の『落地』というわけさ。分岐した濁流は大蛇のように見えたことだろう。オロチ退治の伝説は当時の為政者の治水事業のメタファーだろうね。
実は数多町にも残っているんですよ。
ヤマタノオロチならぬ――アマタノオロチが」
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