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「じゃ。まずはエゴサいってみよー!」
五夢がスマホをひらつかせながら、お得意のウインクをして見せた。現代の言葉に敏感な万世先生が、さっそく反応する。
「えごさ。さっきも言ってましたね」
「そっそ。エゴサーチ。みんなやってるよ。自分で自分の名前とかキーワードを検索して評判を確かめんの」
FIVESの検索窓に手早く「いつむ~みん ミル」と入力して、引っかかった呟きを順番に非公開のお気に入りリストに入れていく。その後も表記をひらがな、カタカナ、漢字、果ては記号などに少しずつ変えながら何度も何度も繰り返し検索を続ける。気の遠くなるような作業だ。
「すごいね。数字の『126』で五夢、『[1000]』で千なんて――みんなよくあれこれ考えるなぁ」
「FIVESは五ツ橋生なら誰でも自由に使える分、発言の非公開機能ないからさ。当て字にして一見分からないようにカモフラする奴けっこーいるんだよね。ボク的には検索避けを突破してからが本番って感じ。折角だから包み隠さない本音見たいし」
「でもそれって、悪口書かれてたらへこまない?」
「さすがにありえないこと言われてたらムカツクけどさ。アンチはむしろそれだけボクのこと真剣に見てくれてるんだ、好き! ってなる」
我が親友ながらなんという強メンタル。五夢は素行こそあまり良くはないけれど、こういう竹の割ったような性格は気持ちがいいし、基本的には義理堅い良いヤツなのだ。でも誰しもが五夢のように精神的に屈強でいられるわけじゃない。ぼくはやっぱりいつまでも罵詈雑言には慣れることが出来そうにない。
「ほぉ。雨後の筍もかくや。次から次へと出てくるねぇ」
「――嘘だろ。こんなに噂されてたなんて……」
五夢の手でリストに放り込まれていく呟きの数を見てぞっとする。ぼくたちの元まで流れてきた噂はあくまで氷山の一角。表層の僅かな呟きに過ぎなかったようだ。本人たちのところに伝わる頃には、噂は既に世間に蔓延しているという事実を否応なく突き付けられる。
「よし。拾える呟きは拾ったよカピ! めちゃくちゃ多いけどこっからどーする?」
膨大な呟きリストを一瞥し、万世先生が指示を出す。
「悪意のある発言を選別します。その中から伝聞、想像、感想、願望の類を除いてもらえますか。実際に『見た』『聞いた』と断言している情報だけを出来る限り抽出してください」
「了解!」
なるほど。さすがは先生。情報の濁流の中から、意志を持って明確に「嘘をついている」情報をピックアップするというわけか。
『5月18日15:25 ミサ@3358411IL
126きゅんかわいすぎか。[1000]と結婚はよ』
これは願望。さっき数字や絵文字が自分たちの名前の隠語であるという事実を知ってしまった為、発言した当人はうまく隠せているつもりでも、何を喋っているのか解読出来るようになってしまった。哀しいかな。
『5月16日12:21 のりまき@2441544MM
おデート中の1000126見たよー身長差萌』
実際に「見た」と明言している投稿。これは嘘の類だろう。ぼくと五夢がただ並んで歩いているだけの様子を『デート』などと称しているのでなければ。
『5月15日11:02 鷹の爪@9554128ZR
[1000]きゅん293先生禁断の課外授業なう』
……ノーコメント。
『5月14日20:12 あまね@2233921KI
[1000]ってみんなから言われてるほど池面? 同小だけど母親、夜仕事だったしお察しだって』
視界に飛び込んできた呟きに、ぼくの指がぴたりと停止する。訝しんだ五夢が隣から覗き込んできた。
「ひでぇ。これとか完全に誹謗中傷だって。自分の事だけならともかく家族のことまで言いたい放題はさすがに腹立つよなーミル?」
「――それはいいよ。本当のことだから」
「……え?」
「隠してるわけじゃないし、多分今回の変な噂とは関係ないと思うから」
大丈夫だよ、とにこやかに笑ってさくっとリストから削除する。
切り替えていこう。
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