第五話「おひれはひれ」~SNSデマ拡散事件~

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 彼女たち二人に案内してもらい――その人物のところへ向かう。  法学部棟のゼミ室。手鏡を片手に前髪のセットをなおしている、すらりと背の高い女性。ノースリーブの黒いタートルネックのサマーセーターに、タイトなロングスカート。背中まである栗色の髪をくるくると器用に巻いてある。 「やっぱり。あの子、噂の五ツ橋(いつつばし)ミスコン女王――九谷(くたに) (あや)じゃん! 名前聞いた時にもしかしたらって思ったんだけど――本人だわ」  言われてみると、去年ぼくと一緒にトロフィーを貰った女の子に似ている気がしてきた。花粉症の時期だからか不織布のマスクを付けているので、メイクとマスカラばっちりの目元しか見えない。 「最近女王、SNSに写真アップしないなーって言われててさ。顔に怪我したか、整形失敗したんじゃないかってみんなに噂されてた。元々ヤラセで受賞したんじゃないかとか、気の合わない子苛めてるとかであんまり評判良くなくてさ。浮上しなくなってから余計に色んなこと言われ出してるよ」  情報通の五夢(いつむ)がぺらぺらと話してくれる。ここでもまた『噂』か。そろそろうんざりしてくる。  ぼくらの姿を視界に入れるやいなや、九谷(くたに)さんは何故か目を見開いて、ぎょっとしたような表情を浮かべた。  距離をとろうとした彼女を遮るように、万世(まよ)先生が、全く物怖じしない様子でつかつかと歩み寄る。 「待ちなさい。七五三(しめ)君と二月(ふたつき)君についての噂を最初に流した犯人は、貴女ですね」  万世(まよ)先生が問う。 「何よ。あんた誰? 言いがかりなら一旦事務所を通してから――」 「――そちらの方々に全て聞きました」  マスク越しに小さな舌打ちが聞こえた。 「そうよ。でもだから何だって言うの?」  九谷(くたに)さんは悪びれず、高圧的な調子で答える。 「あたしは、そこの二人に『実は七五三(しめ)君と二月(ふたつき)君に付き合ってる人がいる』って軽い気持ちで伝えただけ。まさか七五三(しめ)君と二月(ふたつき)君がこんなに人気だなんて思わなかったけどね。ありがちな話だし、噂なんてみんなしていることよ。話題になれて良かったじゃない。有名税みたいなものでしょ」  どうやらこれが一連の噂の原型だったようだ。そこの女の子たちやその仲間を通じて、おひれはひれをくっつけながら伝言ゲーム的に歪んでいったようだけれども。  それにしても。 「軽い気持ちだったとしても、悪意を込めて嘘ついたのは事実だよね。ぼく、九谷(くたに)さんに恨まれるようなこと何かしたかな」  五夢(いつむ)はどうか知らないけど、ぼくと九谷(くたに)さんとは去年合同開催されたミスコンとミスターコンの表彰式で一緒に並んだだけの間柄だ。特に恨みを持たれてしまう理由は見当たらなかった。  でも、ぼくの素朴な疑問の言葉に、九谷(くたに)さんは神経をひどく逆なでされてしまったらしい。 「――」  チリッと一瞬空気が軋んだ感触を覚える。え、今のは何なんだろう。  先生がおもむろに彼女の顔を見上げる。 「貴女――(さわ)りを受けているでしょう。顔に」  はっとしたように九谷(くたに)さんがマスクの口元のあたりを慌てて掌で覆い隠す。『障り』だって? 「隠していても分かります。正直に話してください」
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