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何度か同じように呼び掛けてみるも、REM君は困ったように首を振るばかりだった。
「あれ、おかしいな。迷宮通は奥まった所にあるので、接続が不安定なのかもしれませんね。違うメニューを試してみましょうか」
気を取り直し。今度は『アマタナビ』を呼び起こしてもらう。
『アマタナビ』は地元の恒河社という出版社が母体になって運営している、数多町の地域情報サイトだ。新しく出来たお店の情報や、穴場スポットの紹介、特売情報まで載っていて、住民としては非常に重宝している。
「地元ノイベント情報ヲ、オ知ラセシマス。
明日七月七日ハ、累山ニアル襲神社デ、第七回『かさね祭』ガ開催サレマス」
「へぇ――地元の神社でお祭りがあるらしいですよ! 万世先生」
「累山……確か数多町の北西部の奥まったところにある山だったはずですが、訪れたことはないですね」
「せっかくだし、行ってみませんか? ぼくも試験勉強ばかりで、そろそろ気分転換がしたくって。地域の人達が集まるお祭なら、ご挨拶して新しい繋がりが出来るかもしれませんし、名を売っておけば探偵舎のPRになるかもしれませんよ」
そういうものでしょうか、と先生が唇に指を当てて考え込んでいる。
聡い先生には勘付かれてしまっているかもしれない。
もちろんコネや宣伝も大切に違いないけれど――結局は、方便だ。
本当は、大好きな先生と一緒に楽しいことがしたいだけなのだ。
刻一刻と大切な時は過ぎてしまうし、その時にその人としか出来ないことが数多くある。いなくなってから後悔したって、もう遅いのだ。
たくさん失ってきたぼくは、身をもってそのことを知っている。
だからこそ。
「美味しい食べ物の屋台もきっとありますよ。ぼくの奢りです」
「行きましょう」
あっけなく即答した先生の、愛しいぼさぼさ頭をじっと見つめる。
ぼくは大学でやっているフェスにこそ毎年参加しているけれど、地域のお寺や神社でやっているお祭りらしいお祭りには今まで参加出来ずに過ごしてきた。なので――生まれて初めての「夏祭り」への期待に、ただただ純粋に胸を高鳴らせていたのだった。
この夏祭りが。
深く記憶に刻み込まれる一夜になるとは、思いもせずに。
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