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「好きですーー付き合ってください」
「ごめんね。そういうのちょっと」
それからというもの。
見知らぬ女の子にいきなり告白されることが増えた。うんざりするくらいに。
「ミスターコンで一目惚れしたので、お付き合いしたいです。私じゃダメですか?」
「有難う。でも、ごめんなさい」
彼女達は、ぼくに気持ちを伝えてどうしたいんだろう。抱えている気持ちを吐き出して楽になりたいんだろうか。それともぼくにーー何か求めているんだろうか。
「何が駄目なのよ。もう彼女がいるとか?」
「それはーーいないけど」
「じゃあ付き合ってくれてもいいじゃない」
「そういうのよく分からなくて……」
「何よ。その気がないんだったら、思わせ振りな態度とらないでよ」
怒りながら去っていく女の子の背中を、乾ききった笑顔で見送る。
愛ってなんだろう。好きになるってなんだろう。付き合うってなんだろう。ぼくには、よく分からない。
母さんや父さんたちが子供や世間体を放り出すくらい夢中になっていたソレは、一体何だっていうんだろう。
専属契約みたいなものだろうか?
互いの心や体に踏み込む許可を与えること? それならば。ぼくは誰かに踏み込むつもりもなければ、自分の領域に踏み込んできてほしくない。
ここにはーー期待するようなものは、何もないのだから。
「ひょ~! ーー見かけによらずエグい振り方するよね、千って」
自分は両頬に平手打ちされたあとを付けながら、五夢が横で口笛を吹いた。彼は浮気性なところがあるので、いつもダブルブッキングやトリプルブッキングを起こしては、女の子達に思い切り殴られている。
「こっちから振るんじゃなくて、自分が悪者になって女の子に振らせてあげるほうが後々円満だよ。多少ほっぺは痛むけどねー。愛の伝道師からの忠告」
「……それはそれでどうかと思うけど」
その時。
女の人の叫び声とガシャーンという大きな音がしたので咄嗟に振り返るとーー。
さっきぼくに告白してきたばかりの名前も知らない女の子が、落ちてきた看板の下敷きになっていた。
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