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幸いその子は軽傷で済んだと聞かされた。
学部棟の二階に吊るされていたベニヤ板のイベント看板が、突然落ちてきたらしい。
その後も。
何故か学内での事故や事件が続いた。
通りすがりの不審者に怪我をさせられた、自転車にはねられた、資料室の棚が倒れてきたーーなどなど。
騒然とする大学のSNSーーFIVESのタイムラインを物騒だなぁと眺めていたら、ぼくはあることに気付いてしまった。
奇妙なことに。
巻き込まれている子たちに覚えがある。どうやらぼくに告白してきた女の子達ばかりなのだ。
「いやーーまさかね」
偶然が重なったのだろう。
そう思うことにしてスマートフォンの画面を閉じ、ノートと課題の文献を取り出した。そろそろ午後の語学の講義が始まる時間だ。
「ねぇ七五三君、だよねーー隣いい?」
「うん、どうぞ」
座席は自由なので、同じ学部と思わしき女子が最前列の隣席に座る。やたらとねっとりした視線を感じる。何となく授業内容に集中しづらくなったぼくは、小声で尋ねてみた。
「……ぼくの顔に、何かついてる?」
「ううん。ねぇ、今日この後ーー時間ある? ずっと七五三君のこと、気になってたんだよね。二人でどっか遊びに行こうよ」
ぴとり、と彼女がぼくの手に自分の手を重ねてくる。いつか母親が纏っていた粘着質な空気感が思い出されて、ぞわぞわと鳥肌が立つ。思わず気分が悪くなって反射的に席を立とうとした、その時ーー。
いきなりその女の子が、ガタンッと勢いよく机に突っ伏したのだ。
「え、ーー?」
見ると、白目を向いてぐったりと倒れ伏している。糸の切れた操り人形みたいに。さっきまで全く普通の様子だったのに、あまりにも突然。
「……き、救急車をーー!」
授業は一時中断となり。
駆けつけた救急の担架に載せられて、彼女はそのまま運ばれていった。
どういうことだ? 何が起きてるんだ? いよいよ思い過ごしでは済まされない何かを感じ取って、サイレンの鳴り響く中、ぼくはひとり頭を抱えていた。
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