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程なくぼくは七五三家の中で「悪魔の子」と呼ばれ。近付くと不幸が伝染すると吹聴されて、一族はもとより使用人やメイドの殆どにまで敬遠されるようになっていった。
居場所をますます失くしたぼくは屋敷内で過ごすのも嫌でたまらなくなりーーとぼとぼと広い中庭の森を彷徨い、やがて隅のほうにある古い石造りの建物へと辿り着いた。
入口は、苔むしているが、開いている。
逃れるように中へ入ると、山羊みたいな頭をした石像にもたれ掛かり、ぼくは静かに膝を抱えた。
見たこともない文字がびっしりと刻まれた石碑と壺のようなものがずらりと並んでいる。壁には骸骨や蛇のレリーフが装飾として掘られている。この家の納骨堂のようなものかもしれない。
死んだ人ばかりなら、そのほうがずっと落ち着く。もう既に死んでしまっている人達なら、それ以上傷つくことも死ぬこともない。たとえぼくが触れたとしても。
ここは静かだ。落ち着く。
うるさい人たちもいない。
「ーーみぃつけた。みるおにいちゃん、かくれんぼ?」
入口からひょこりと、品のいいサスペンダーズボン姿の小さな少年が現れた。丸い大きな瞳がぼくのしょぼくれた姿をとらえて、覗き込んでくる。
「那由多君ーー」
もうこの屋敷でぼくにまともに話しかけてくれるのは、父とぼく付きの使用人夫妻と、この使用人の子供ーー三々倉 那由多君くらいだ。幼さゆえに、ぼくが周囲の大人達から忌避されていることをそこまで理解していないのかもしれない。
「あくまのこじゃないのにね」
「あまりこっちに来ると危ないよ。ぼくが怖くないの?」
「おにいちゃんは、いいこ。たいせつ」
そう言って、小さな手のひらでぼくの頭をそっとなでなでしてくれた。この子なりに励ましてくれているのだろう。こみあげてくる涙を懸命に堪えながらぼくは、
「ありがとう。ーー頑張るね」
ぼくをぎりぎりのところで繋ぎ止めてくれた、この小さな仲間に感謝した。
ぼくは、なけなしの思考を働かせる。
どうして。
ぼくのことを好きになってくれた人たちが、ぼくに関わろうとしてきた人たちが、次々とあんな目に遭ってしまうのか。傷ついたり、命を奪われたり、不幸に見舞われてしまうのか。ぼく特有の性質なのか。何か条件があるのか。それとも何か目に見えない大きな力が作用してしまっているのだろうか。
ここに来るまでは違った。
不幸のどん底みたいな荒れ果てた生活ではあったけれど、それでも男女の友達に囲まれながら普通に暮らしていたはずなのだ。
この家にーー七五三家に来てからだ。
何もかもがおかしくなってしまったのは。
ぼくの運命がーーねじ曲げられてしまったのは。
ぼくは、確信していた。
間違いない。
ぼくは呪われてしまったのだ。
おそらくは。
この家に関わっている、誰かに。
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