幕間「都九見の目論み」~なぞかけ勝負~

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幕間「都九見の目論み」~なぞかけ勝負~

 数多町七十刈探偵舎  幕間「都九見(つぐみ)目論(もくろ)み」  大学がある日は、万世(まよ)先生の昼食を作り置きする傍ら、自分のお弁当も作って持っていくことにしている。  ぼくが隣町を牛耳(ぎゅうじ)っている名家の『七五三(しめ) 家』に引き取られてから一年以上経つが、ボロアパートで切りつめながら生活していた頃の癖はしっかりとこの身にしみついている。自分で料理するのは楽しいし、何より節約になるのだ。 「いつも七五三(しめ)君のお弁当は美味しそうでいいねぇ」  と言いながら――ぼくの所属する文学部民俗学科のゼミの指導担当、都九見(つぐみ)准教授が通りがかりにひょいと覗き込んでくる。銀縁の丸い眼鏡の奥で光る琥珀色の瞳は、明らかにぼくのたこさんウインナーを狙っている。 「あげませんよ。ていうか、ツグセンはモテるんですから、お料理上手な恋人でも作ったらどうです」 「あっはっは。私は研究と添い遂げることを心に誓っているからねぇ。お料理上手な教え子がいてくれればそれで満足なのさ。私、ほぼ毎日外食かインスタントだから手料理が♪」  お決まりの駄洒落をかましながら、准教授がにじり寄ってくる。お弁当の危機だ。ぼくは身を(てい)して残りのおかず達を守る。  准教授の思惑は分かっている。  どうせぼくに昼食でも作らせようという魂胆だろう。 「前みたいに学内SNSで妙な噂立てられたらどうするんですか。稼いでるんだからケータリングでも家事代行でも頼んでくださいよ」 「うーん、それはちょっと違うなぁ。私は七五三(しめ)君の作るものに興味があるんだよねぇ」 「ぼくは万世(まよ)先生のお世話で忙しいので、ツグセンのお世話まで手が回りません」 「磨いた料理の腕前を、限られた身内にしか振るわないのは勿体ないと思わないかい。せっかく作るなら相手は多いほうがいい。食べた感想や意見が沢山集まるし、さらなる向上に繋がるはずだよ」  いつの間にか隣に座っていた都九見(つぐみ)准教授が、確信に満ちた意地の悪い笑みを浮かべ、そっと囁いた。 「さぁどうだい。真面目で向上心溢れる七五三(しめ)君。  万世(まよ)君にもっと美味しいごはん――食べさせたいだろう?」  好物を口いっぱいに頬張って嬉しそうにしている万世(まよ)先生の顔がぽん、と脳裏に浮かぶ。知らない人には殆ど変わりないように見えるかもしれないが、慣れてくると案外先生の表情変化は分かりやすいのだ。  いつかぼくが作った料理で、先生の満面の笑みを見ることが出来たなら。  そんなぼくの一瞬の思考は、案の定この准教授に読み取られてしまったらしい。  ぱちん、と目の前で手を叩くと都九見(つぐみ)さんはぼくに向きなおってにこやかに宣言した。 「はい、決まり。  今週の土曜の午後、私の家で軽食パーティーなんてどうでしょう。シェフは君ね。楽しそうだろう? テスト期間もそろそろ終わりだし、イケメンの癖に恋人ナシの七五三(しめ)君は、土日はどうせ暇だろうし♪ 良かったらお友達も連れておいで」  きっぱりと断るはずが。  あれよあれよという間に勝手に話が決まってしまったのだ。
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