幕間「ベストフレンズ」~ぼくと君の隠し事~

1/9
429人が本棚に入れています
本棚に追加
/318ページ

幕間「ベストフレンズ」~ぼくと君の隠し事~

 数多町(あまたちょう)七十刈(なそかり)探偵舎(たんていしゃ)  幕間「ベストフレンズ」    日暮れ前後の数多町(あまたちょう)は――異世界みたいでどこか現実味が薄い。  どうにかゼミの夏期フィールドワークという難関を終えたぼく――七五三(しめ) (ミル)は、ようやく帰宅の途についていた。急ぎ足で居候中の我が家、七十刈(なそかり)探偵舎へと向かう。もうすっかり日が落ちて、暗くなりかけている。  急ぎながらもお土産はちゃんと用意してある。数多(あまた)商店街で購入した、しゃぶしゃぶ用の国産黒毛和牛。よく利用する行きつけのお肉屋さんで良いロースが入ったとおすすめしてもらった。お腹を空かせてぼくの帰りを待っているであろう万世(まよ)先生も、きっと喜んでくれるはずだ。 「ただいま帰りました! あれ……?」  勢いよくぼくが玄関を開けると、予想外にも先生お気に入りの黒い革靴と、もう一つ、見慣れた厚底のスニーカーが置いてあった。この靴があるということは――どうやらぼくの友人、二月(ふたつき) 五夢(いつむ)が来ているらしい。  五夢(いつむ)は基本的には義理堅くて気の良いヤツなのだが、時々煙草も吸うし、倫理コードすれすれの発言も出るし、女の子がらみの素行も宜しくないので、ぼくとしてはあまり先生にみだりに近づけたくない。そもそもSNSで何万人もフォロワーを抱えて時代の最先端をひた走っている上に騒がしい我が友五夢(いつむ)と、ついこの間まで携帯電話の使い方すら知らなかった文明に疎すぎる静かな万世(まよ)先生では、タイプが全然違う。まったくの正反対だ。水と油みたいなものだ。  下手をすれば反作用で大爆発が起きてしまう。  大変なことになっているんじゃないかと思ったぼくは、スリッパを履くのもそこそこに、慌てて応接間へと駆け込んだ。
/318ページ

最初のコメントを投稿しよう!