第三話「にせもの」~怪しい骨董店~

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第三話「にせもの」~怪しい骨董店~

   数多町七十刈探偵社  第三話『にせもの』  ぼくは、七五三(しめ)(ミル)。  ご存知の通り、ここ数多町(あまたちょう)迷宮通(めいきゅうどおり)の探偵舎で先生の『助手』をしている。  ぼくの先生――七十刈(なそかり) 万世(まよ)と名乗る『探偵』だ――と出逢ってからは大学へ行く前と放課後の二度、探偵舎に顔を出している。 「依頼が無い日は来なくてもいいですよ」  と先生から言われているものの、自然と足が向いてしまうのだ。家と比べて居心地が良いからなのか。それとも先生の顔が見たくて仕方がないからなのか。  有難いことに、近頃は依頼が無い日のほうが少なくなっている。  町内会の役員をやっているツクモ君の飼い主ご夫婦が先日の猫探しの顛末を広めてくれたお陰で、探偵舎の知名度はじわじわ上がりつつあった。事務所のレトロな黒電話はしょっちゅうリンリン鳴っているし、ぼくが管理している探偵舎の公式SNSにも一日に何件かは相談が舞い込んでくる。  文明の利器が苦手な先生に代わって、広報担当として今日もタブレットでSNSを更新する作業にとりかかる。  最近では、宣伝の合間にぼくらの日常風景を挟み込むことにしている。  肝心の先生は何故か頑なに写真を撮らせてくれないが、仲間のベンガル猫探偵――億良(おくら)はまるで人間の言葉が解っているんじゃないかというくらいに、すましたポーズをとって快く撮影に応じてくれる。SNSでの評判も上々だ。  あと、何故かぼくの自撮り写真にも「イケメン助手くん」などと女性達からのコメントがつき始めている。正直自分の外見はちっとも好きじゃないが、多少なりとも探偵舎の宣伝になっているなら結果オーライだ。  そんなこんなで、結局自宅からも大学からも遠い立地のこの場所にぼくはほぼ毎日通うことになっていた。
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