衝動

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「よしっ!今度は北だ!」 ジュリアンは、宿を出るとひたすら北へ向かった。 昨夜見たおかしな夢のせいなのだろうか、突然、寒い所に行きたいという衝動にかられてしまったのだ。 何日も歩き続け、時には馬車にも乗り… 進むにつれ寒さはどんどん厳しくなった。 (…えらく寒いな。いくらなんでも、こんな遠い所まで来ることはなかったか…) そんな風に少し後悔する気持ちもあるにはあったが、それでもジュリアンは引き返すことはしなかった。 やがて、ジュリアンの目の前に広がったのはツンドラ地帯。 もう夏も近いというのに、あたりの空気は肌を刺すように冷たい。 この辺の土地は永久凍土… つまりは、この地下の土は暖かくなっても溶けない固く凍った土なのだ。 ジュリアンはこの町に一軒しかない寂れた宿に足を踏み入れた。 「ちょっと尋ねたいんだが…このあたりに石の採れる場所はあるかな?」 「あぁ、あるにはあるよ。水晶がよく採れるって場所がね。」 「……水晶かぁ……」 ジュリアンは、石の採掘を生業としている。 とはいっても大掛かりなものではなく、個人で好きな時にでかけては採ってくるといった地道な商売だ。 生業というよりは趣味の延長と言った方が良いかもしれない。 はっきりとした理由はわからなかったが、子供の頃からジュリアンは石が好きで、気が付いたら自分で掘るようになっていた。 つい先日は思いがけず良いエメラルドを堀り当てたため、当座は資金繰りには困らないのだが、水晶ではたいした金にはなりそうにない。 旅費と日にちをかけてわざわざこんな遠い所まで来て、水晶だなんて… もっと考えて行動すべきだったとジュリアンは悔やんだ。 落胆と疲労のため、ジュリアンはまずは宿でゆっくりと休むことにした。 * 次の日、ジュリアンはあまり気乗りしなかったせいか、昼近くになってからようやく教えてもらった場所へ出発した。 何もないといえば何もないのだが、見方を変えればそこはとても気持ちの良い景色だった。 地球の広大さを感じることの出来る風景だ。 頬を撫でる冷たい風が、ジュリアンの沈みかけた気持ちに新たな息吹を吹き込んだ。 (……せっかく来たんだから、とりあえずは頑張るか。 幸い、今は金にも困っちゃいない。 とびっきり綺麗な水晶を掘り出してやろうじゃないか。) 考え方を少し変えただけで、ジュリアンのつるはしを振るう腕に力がこもった。 長い髪を一つに束ね、何度も何度もつるはしをふるっているうちに、ジュリアンの額からは玉のような汗が滴り落ちる。
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